(『百実帖』より)
野で摘む
最近、野の苺のおいしさに目覚めた。時季が近づくとそわそわしてくる。
もっとも好きなのは、草苺。大粒でジューシー。家の周りではありふれた植物で、けっこう邪険にしていた。なんともったいないことをしていたのかと反省しきりだ。
その次は紅葉苺(モミジイチゴ)。旬が短いので、目当ての場所に日参して待ち受ける。だからなのか、味もひとしおに思える。
素直においしいのもさりながら、「野で摘む」から、夢中になるのだと思う。
育てるものは、収穫というゴールが見えている。時間も手もかけているぶん、穫るときの充実感はあるけれど、心は落ち着いている。
採集するものは、ただ穫るだけだ。野で摘んでいると、喜びとも興奮ともつかぬ感情が、身のうちを駆け巡る。労せず、というところがポイントかもしれない。穫ることへの、単純な沸き立つ気持ち。
味がうすい蛇苺だって摘みたくなるには、そのせいかと思う。
草苺〈クサイチゴ〉
春~初夏|バラ科 落葉低木
かごに草苺〈クサイチゴ〉を生ける
苺摘みにはかごを持って出かけたい。
そのイメージを花生けにも取り入れて。
花材
草苺(クサイチゴ)/ ビバーナム/芹葉飛燕草(セリバヒエンソウ)
花器
ヘーゼルナッツのかご
※ 本記事は『百実帖』(エクスナレッジ)からの抜粋です
〈スタイリング・文/雨宮ゆか 撮影/雨宮英也〉
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雨宮ゆか(あめみや・ゆか)
花の教室「日々花」主宰。神奈川県生まれ。季節の草花を生活に取り込む「花の楽しみ方教室」を東京・大田区のアトリエを拠点として全国に発信。工芸作家とコラボした花器の提案をおこない、各地のギャラリーで企画展を催す。花にまつわる執筆やスタイリングなどを手がけ、メディア掲載も多数。 著書に『花ごよみ365日』(誠文堂新光社)、『百花帖』『百葉帖』(ともにエクスナレッジ)がある。
雨宮英也(あめみや・ひでや)
写真家。東京都生まれ。梅田正明氏に師事の後独立。食器、家具、住宅など生活にかかわるプロダクトを主に撮影。人の暮らしが伝わる建築写真に定評がある。 近刊に『小さな平屋。』『自然と暮らす家』(ともにエクスナレッジ)など。