フランス人イラストレーター、イザベル・ボワノさんが見つけた、ささやかで幸せな日常。5月に楽しむ花々と、イザベルさんが大好きなケシの花についてのエッセイを紹介します。
(『フランス田舎暮らし12カ月』より)
Mai
5月
Le Muguet de mai
[5月のスズラン]
5月はフランス人にとってバカンスの予行演習
「5月は好きなようにすればよい」※
これは、フランス人の多くが気に入って使う言い伝え。
※実際は「4月は一糸たりとも脱いではいけない」の後に続けて使う。
フランスの5月には、立て続けに祝日がある。5月1日はメーデー、5月8日は第二次世界大戦終戦記念日、そして、復活祭の40日後に祝うキリスト昇天祭と復活祭の50日後に祝う聖霊降臨祭は、どちらもキリスト教にまつわる祝日。
休暇をとるのが好きなフランス人は、この月、祝日と週末を組み合せて小旅行に出ることが多い。夏の長いバカンスにむけた予行演習のようなものだ。
庭園にさまざまな種類の花が咲き、散歩するのにとても気持ちがいい時期でもある。
ある年の5月、ジヴェルニーにあるクロード・モネの庭を訪れたことを思い出す。色合いが信じられないほど美しくて、そこはまるで地上の楽園だった。
こうして私は毎年、花が咲き誇るこの季節に、素晴らしい庭園を見に出かけ、はかなくも美しい花々の姿を目に焼きつける。
ちょうど、園芸市シーズンでもあるから、庭に欠かせないバラやあじさいの新品種を入手するチャンス。
今のところ、私が買うのは両親の庭のための花や木だけど、いつかは自分自身の庭のために草や花や木を選ぶ日もくるのかな……。それが私の夢。
自分の畑で種をまき、苗を植え、収穫し、そこに見えるものすべてを絵に描き、庭で起きたことを日記に書く。そんな自分の姿を想像するのを楽しんでいる。
Incroyables pavots
[驚くべきケシの花]
フランスでは、大都市に住んでいない限り、花屋さんでケシの花を見つけるのはなかなか難しい。
だから、自分の庭を持つまではと、ここ数年は苗や種を父に渡して、両親の庭で育ててもらうようにしている。
花が開く前のつぼみの状態のものを何本か切り取り、自宅に戻ってから水につける。
それから毎日、開き具合を確かめる。忍耐強く観察すれば、つぼみがだんだん開いて、花びらが広がっていく様子を見ることができる。
まさに生命の誕生に立ち会う瞬間だ。
しかも、花の色が赤か、白か、オレンジか、黄色か、ピンクなのか事前にはわからないので、サプライズ効果が大きい。
大好きなこの花には、魔法のような力があると信じている。
本記事は『フランス田舎暮らし12カ月』(パイ インターナショナル)からの抜粋です
〈文・撮影・イラスト/イザベル・ボワノ〉
イザベル・ボワノ(Isabelle Boinot)
フランス、アングレーム在住のアーティスト、イラストレーター。1976年、フランス西部の町ニオール生まれ。雑誌や書籍、雑貨、広告などさまざまな分野で活躍中。著書に『シンプルで心地いいパリの暮らし』(ポプラ社)、『わたしのおやつレシピ』(小学館)、『パリジェンヌの田舎暮らし』『おとしより パリジェンヌが旅した懐かしい日本』(パイ インターナショナル)などがある。2024年4月に『フランス田舎暮らし12カ月』(パイ インターナショナル)を発売。
インスタグラム:@isabelleboinot
webサイト:http://i.boinot.free.fr/
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何気ない一日を慈しむ。パリジェンヌが見つけた、ささやかで幸せな日常。フランス人イラストレーター、イザベル・ボワノの1月から12月までの日常を、日記・ブーケ・ワードローブ・お出かけ・お買い物・雑貨コレクション・レシピ…などの10のテーマで紹介。好きなものに囲まれた、穏やかで心地よい暮らしを送るためのヒントが詰まった1冊です。