(『天然生活』2023年8月号掲載)
夫婦ふたりの食卓。道具や器もコンパクトに
できるだけ毎日、家族そろって夕食を食べたい。それは、後藤由紀子さんが母親としてとても大切にしてきた思いでした。そのために、自身が営む雑貨店「hal」の閉店時間を15時としていたこともあるほど。
「家に帰る途中に買い物をして、家に着いてからは、洗濯物を取り込んだり、夕食の支度をしたり。そこから逆算すると、どうしても早い時間の閉店になってしまって。お客さまにはご迷惑をおかけしたと思うけれど、それが精いっぱいでした」と当時を振り返ります。
ふたりの食卓では道具や器をコンパクトに
そうして続けてきた家族の夕食も、数年前から夫婦ふたりで過ごす時間になりました。子どもふたりが就職して家を出たため、家族4人で食卓を囲むことは年に数回になったといいます。
「最初はふたり分の量をつくるのに慣れなくて、おかずが余ってしまうこともありました。同じものをずっと食べつづけたりして。でも、工夫しながら少しずつ適量を見極められるようになってきたかな。たとえばね……」と見せてくれたのが、小さなふた付きの鍋。
直径15cmほどで、それまで使ったことのないサイズのものを取り入れたのだそう。
「試しにこれで味噌汁をつくってみたら、夫婦ふたりでちょうど食べきれる量だったんです。そうか、道具を少し小さくすればいいんだと気がついてからは、フライパンやボウルもひとまわり小さいものをよく手にするようになりました」
そう話しながら、実際に夕食の準備を始めます。冷蔵庫から取り出したつくりおきのほうれんそうのごまあえは、いままでよりも小さな容器に入っていました。
「料理の仕方も変わりましたね。たとえばほうれんそうなら半分はおひたしにして、残りはごまあえにしてとつくり分けるように」
手際よく巻いて揚げ焼きにした春巻きもしかり。それまでは皮を10枚全部使っていましたが、いまは半分使って、残りは冷凍するのだそう。
「盛る器も小さくなったんですよ。前は8寸(約24cm)の器におかずをどーんと盛っていたけれど、いまはよく手にするのは5寸(約15cm)皿。そういえば、特売だからとかごいっぱいに野菜を買うことはなくなったなぁ」とポツリ。さびしくなりませんでしたか? と聞くと「そうねー、つくりすぎちゃって『あーあ』と思ったこともあるけれど。人生、慣れです!」と笑います。
慣れといえば、夫婦ふたりでの家事のやりくりも同じことだと後藤さんは続けます。
「夫は、結婚当初から、お願いすれば手伝ってくれる人だったので、少しずつ担当を増やしていったんです。いまは朝のコーヒーを淹れたり、食器を洗ったり。とはいえ、いわなくてもやってくれるようになるまで、根気よくコツコツお願いしつづけて、習慣になった感じ。ね、まーさん」と笑う後藤さんに、夫の「まーさん」が続けます。
「朝は由紀子より、僕のほうが早く起きるからね。コーヒーは、あらかじめ大きな保温ボトルに淹れておくようになりました。そうすれば朝ごはんのあとに飲めるし、残った分は仕事に持っていけるからいいですよ」
<撮影/林 紘輝 取材・文/晴山香織>
後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
静岡県沼津市生まれ。東京の雑貨店で勤務後、2003年に沼津市で自身の店「hal」をオープン。自分で実際に使っていいと感じた器や調理道具、衣類などを扱っている。審美眼に定評があり、家族を大切にする暮らしぶりも人気で著書も多数。近著は20冊目となるエッセイ『雑貨と私』(ミルブックス)。インスタグラム@halnumazu
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです