(別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』より)
鍛錬を重ねた、繊細でていねいな手作業に見とれて
美濃羽さんは、三重・四日市市にある萬古焼の窯元「南景製陶園」を訪ねました。住宅街と田んぼが交じる一角に小さな看板を掲げる、家族経営の工場です。
もともと、萬古は製造卸が中心の商業産地でした。「南景製陶園」も独自のブランドをもたず、OEMで生産をしていましたが、三代目の荒木照彦さんが、少しずつオリジナル商品の開発をしてきました。
「会社を継いだとき、自分が欲しい急須がなかった」という荒木さんが、新しい技法や土の配合を考え、形にしてきたそう。
さっそく工場の見学へ。機械ろくろを使用しつつ形を整えていくのは、細かな手作業です。
その熟練の技に見とれながら、「みなさん、経験者なんですか?」と尋ねる美濃羽さん。
「みんな初めは初心者です。トレーニングと経験を積んで、できるようになるんですよ」と荒木さん。
ひとつの急須ができるまでには、約12の工程があります。なかでも、持ち手や口などのパーツを組み合わせる接合は、職人の勘が頼り。
持ちやすい角度や位置を見極めてぴたりと合わせる様子に、美濃羽さんは「さすがですね」と感心しきり。わずかな差が、急須で淹れるお茶の味を左右するのです。
急須ができるまで
急須づくりは出荷までに12工程、1カ月ほどかかる。手作業と機械作業を組み合わせて、手間を惜しまず、ていねいにつくられている。
土練り
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成形
石膏型に陶土を落としてコテを当て、機械式ろくろで成形する
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茶こし製造
手作業で約150個の穴をあけていく
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接合
胴体に取っ手、口、茶こしを接合する。数ミリの違いが使い心地を左右する、大切な作業
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生地仕上げ
スポンジと水で生地をなめらかに仕上げる
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素焼き
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払い検品
エアで、ほこりを払う
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素焼き
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加飾・施釉
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本焼成
8〜10時間かけて、しっかりと焼く
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すり合わせ
焼き上がり、ぴったりとくっついているふたと胴体を外し、口がぴったり合うようにすり合わせる
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検品、出荷
茶葉にふさわしい淹れ方を知ることで、お茶時間がより楽しみに
工場の脇にはショップ&ギャラリーがあり、奥さまの礼さんが、商品を使ってお茶を淹れてくれました。
道具の使い方や茶葉に合った淹れ方を改めて教えてもらった美濃羽さんは、ステンレス底網が付いた急須が気になる様子。
「最近は細かい茶葉が多いので陶製の茶こしでは目詰まりしやすいのですが、このタイプは茶葉の通りがいいんです。網が底から少し浮いているので残り湯に茶葉がつからず、二煎目、三煎目もおいしく淹れられますよ」と荒木さん。
内側に釉薬を塗っていない急須は、生地のザラザラが茶葉の雑味や苦味を抑えてくれておいしくなる、というお客さまの声もあるそう。
美濃羽さんは、ステンレス底網の急須と、湯飲み、茶托を5客お買い上げ。
「明日の朝、お茶を淹れるのが楽しみです」
急須のことやお茶の話を伺いながらいただいた一服は、まろやかな甘味が印象的でした。
おいしく淹れられる急須いろいろ
南景製陶園
https://www.nankei.jp/
〈撮影/辻本しんこ〉
本記事は別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』からの抜粋です
美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
京町家で暮らし、「FU-KO Basics.」の名で服飾作家活動を。手づくりのあるていねいな暮らしも提案。6月26日に天然生活別冊『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』が発売。https://fukohm.exblog.jp/