• 築約100年の町家で暮らす美濃羽まゆみさん。毎日立つ台所では、かごやざるといった天然素材の道具とともに、シンプルで機能性に優れた台所道具を愛用しています。今回は、見た目も使い心地もよく、長くつきあえる急須との出合いを求めて、三重の窯元を訪ねました。
    (別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』より)

    鍛錬を重ねた、繊細でていねいな手作業に見とれて

    画像: 近鉄霞ヶ浦駅から歩いて3分ほどの工場内では、急須をはじめ、さまざまな食器がつくられている

    近鉄霞ヶ浦駅から歩いて3分ほどの工場内では、急須をはじめ、さまざまな食器がつくられている

    美濃羽さんは、三重・四日市市にある萬古焼の窯元「南景製陶園」を訪ねました。住宅街と田んぼが交じる一角に小さな看板を掲げる、家族経営の工場です。

    画像: 工場にショップ&ギャラリー「870(はなれ)」が併設されている。現在休業中。営業再開情報はHPで

    工場にショップ&ギャラリー「870(はなれ)」が併設されている。現在休業中。営業再開情報はHPで

    もともと、萬古は製造卸が中心の商業産地でした。「南景製陶園」も独自のブランドをもたず、OEMで生産をしていましたが、三代目の荒木照彦さんが、少しずつオリジナル商品の開発をしてきました。

    「会社を継いだとき、自分が欲しい急須がなかった」という荒木さんが、新しい技法や土の配合を考え、形にしてきたそう。

    画像: 急須が約1000個入るというガスの窯の前で。夏場の焼成時は50℃を超えるという過酷な環境。温度計が付いていたが、「見るとさらにくらっとするから」外したとか

    急須が約1000個入るというガスの窯の前で。夏場の焼成時は50℃を超えるという過酷な環境。温度計が付いていたが、「見るとさらにくらっとするから」外したとか

    さっそく工場の見学へ。機械ろくろを使用しつつ形を整えていくのは、細かな手作業です。

    その熟練の技に見とれながら、「みなさん、経験者なんですか?」と尋ねる美濃羽さん。

    「みんな初めは初心者です。トレーニングと経験を積んで、できるようになるんですよ」と荒木さん。

    画像: 接合の作業。角度や位置を見極めて、ていねいに付けていく。天然の土は気温や湿度に合わせた調整が必要

    接合の作業。角度や位置を見極めて、ていねいに付けていく。天然の土は気温や湿度に合わせた調整が必要

    画像: 焼き上がると、急須のふたと胴体は、ぴったりとくっついている。糸切りばさみで軽く叩いて離す作業を見学

    焼き上がると、急須のふたと胴体は、ぴったりとくっついている。糸切りばさみで軽く叩いて離す作業を見学

    ひとつの急須ができるまでには、約12の工程があります。なかでも、持ち手や口などのパーツを組み合わせる接合は、職人の勘が頼り。

    持ちやすい角度や位置を見極めてぴたりと合わせる様子に、美濃羽さんは「さすがですね」と感心しきり。わずかな差が、急須で淹れるお茶の味を左右するのです。

    画像: 急須だけで50~100種類も。器作家・イイホシユミコさんの急須など、オーダー製品の相談もよく持ち込まれるそう

    急須だけで50~100種類も。器作家・イイホシユミコさんの急須など、オーダー製品の相談もよく持ち込まれるそう

    急須ができるまで

    急須づくりは出荷までに12工程、1カ月ほどかかる。手作業と機械作業を組み合わせて、手間を惜しまず、ていねいにつくられている。

    土練り

    成形
    石膏型に陶土を落としてコテを当て、機械式ろくろで成形する

    茶こし製造
    手作業で約150個の穴をあけていく

    接合
    胴体に取っ手、口、茶こしを接合する。数ミリの違いが使い心地を左右する、大切な作業

    生地仕上げ
    スポンジと水で生地をなめらかに仕上げる

    素焼き

    払い検品
    エアで、ほこりを払う

    素焼き

    加飾・施釉

    本焼成
    8〜10時間かけて、しっかりと焼く

    すり合わせ
    焼き上がり、ぴったりとくっついているふたと胴体を外し、口がぴったり合うようにすり合わせる

    検品、出荷

    茶葉にふさわしい淹れ方を知ることで、お茶時間がより楽しみに

    工場の脇にはショップ&ギャラリーがあり、奥さまの礼さんが、商品を使ってお茶を淹れてくれました。

    道具の使い方や茶葉に合った淹れ方を改めて教えてもらった美濃羽さんは、ステンレス底網が付いた急須が気になる様子。

    画像: 「湯飲みに合う茶托がなかったから」と、荒木さんが茶托までデザインした。ステンレス網急須 杏 10,560円、碗 桜貫入 1,815円、茶托 2,640円

    「湯飲みに合う茶托がなかったから」と、荒木さんが茶托までデザインした。ステンレス網急須 杏 10,560円、碗 桜貫入 1,815円、茶托 2,640円

    「最近は細かい茶葉が多いので陶製の茶こしでは目詰まりしやすいのですが、このタイプは茶葉の通りがいいんです。網が底から少し浮いているので残り湯に茶葉がつからず、二煎目、三煎目もおいしく淹れられますよ」と荒木さん。

    内側に釉薬を塗っていない急須は、生地のザラザラが茶葉の雑味や苦味を抑えてくれておいしくなる、というお客さまの声もあるそう。

    美濃羽さんは、ステンレス底網の急須と、湯飲み、茶托を5客お買い上げ。

    「明日の朝、お茶を淹れるのが楽しみです」

    急須のことやお茶の話を伺いながらいただいた一服は、まろやかな甘味が印象的でした。

    おいしく淹れられる急須いろいろ

    画像: ひとつずつ使い心地が違うので、試してから選ぶのがおすすめ。上から、急須菊型粉引 7,480円、sencha急須150 8,250円、鉄鉢白練急須 8,800円

    ひとつずつ使い心地が違うので、試してから選ぶのがおすすめ。上から、急須菊型粉引 7,480円、sencha急須150 8,250円、鉄鉢白練急須 8,800円

    画像: ステンレス茶こし付きの急須は、細かい茶葉のお茶を淹れるときに向く

    ステンレス茶こし付きの急須は、細かい茶葉のお茶を淹れるときに向く

    画像: 伝統的な陶製の茶こし。ひとつに約150個の穴があり、お茶をこす

    伝統的な陶製の茶こし。ひとつに約150個の穴があり、お茶をこす

    画像: 「美しい急須」が生まれる窯元、三重・南景製陶園へ。長くつきあえる台所道具を探して|美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし

    南景製陶園

    住所:三重県四日市市八田1-9-14
    https://www.nankei.jp/

    〈撮影/辻本しんこ〉

    本記事は別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』からの抜粋です

    別冊天然生活『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』

    別冊天然生活
    『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』

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    美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ) 
    京町家で暮らし、「FU-KO Basics.」の名で服飾作家活動を。手づくりのあるていねいな暮らしも提案。6月26日に天然生活別冊『美濃羽まゆみさんの手づくりのある暮らし』が発売。https://fukohm.exblog.jp/



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