推しの器を普段使いする
台湾の知人で、日本各地の窯元を回って直接購入した茶器の数々を、普段使いしている人がいます。
彼は英語の講師をしていて、授業の合間の10分間、お気に入りの茶器で一服するのが、気持ちのリセットになるのだとか。
「その日の茶器を決めて、さっと抹茶をたてて飲む。作家の世界観や素材の風合いなど、それぞれに表情があって、不思議とお茶の味も違って感じるんだ」とのこと。
「一個、何万円もするでしょう? 割ることはないの?」と聞くと、「そんなに高価ではないけど、大切なものだから気持ちを集中させて丁寧に扱う。それも含めて、気持ちのリセット。いままで一度も割ったことはないよ。それに、せっかく手に入れたのにしまい込んで使わないなんて、もったいないでしょう?」
なるほど、推しの作家をもち、その作品を普段使いするのは、なんとカッコいいのだろうと、私も少しずつ取り入れてみました。
私の推しは、ひょんなことからご縁があった陶芸家で、作風や素材が好きになったもの。
茶碗、大小の皿、花瓶など、数千円の価格帯ですが、量産品には決してない味わいが一つひとつにあり、使うたびに味も出てきて一緒に成長している感覚があります。
果物をのせても、花を飾っても、数割増しで素敵に見えます。
使いやすさや機能性よりも、作品そのものに魅力を感じるものが理想的。「シンプルなものが好き」という基本がありつつも、フォルムや質感など、どこか心に引っかかって「連れて帰りたい!」となる相性のいいものを感覚的に選んでいます。
ただ、作家推しだけでなく、「器選び」そのものを楽しむこともしていきたい。
いつか陶芸の街を訪ねて窯元巡りをしてみたいとも思います。普段の暮らしに、少しだけ上質なエッセンスを添える。お気に入りの作品を大切に使っていく......。
それだけでテーブルも気持ちも華やぐのです。
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不安定な時代に信じられるのは自分だけのセンス
センスという、感覚的であり、つい惹かれてしまう言葉。いったいセンスってなんなのか……? 本書では50種類の仕事、約50カ国を旅してきたなかで著者が「センスいいな」と思った魅力的な人のこと、感性を磨くためにやってきたことから、センスについて考えていきます。日々の生活でマネすることのできること満載なので、1日1個からでも習慣にしてみてください。今までにない不安や悩みを抱えながらも、しあわせに生きていくために。これからの時代に必要になるのが、自分だけのセンスなのかもしれません。
<イラスト/庄野紘子>
有川真由美(ありかわ・まゆみ)
作家、写真家。鹿児島県姶良市出身。台湾国立高雄第一科技大学応用日本語学科修士課程修了。化粧品会社事務、塾講師、衣料品店店長、着物着付け講師、ブライダルコーディネーター、フリー情報誌編集者など、多くの職業経験を生かして、働く女性のアドバイザー的存在として書籍や雑誌などで執筆。46カ国を旅し、旅エッセイも手がける。著書に『一緒にいると楽しい人、疲れる人』(PHP研究所)、『いつも機嫌がいい人の小さな習慣 仕事も人間関係もうまくいく88のヒント』(毎日新聞出版)、『「気にしない」女はすべてうまくいく』(秀和システム)など多数。