1
はるの にちようび。きょうは くみんのうえんにいくひだ。
おとうさんが いった。「おなかいっぱい たべとけよ。たべないと、ちからが でないぞ。」
「うん、ほたか、がんばっちゃうよ。もう 5さいだもん。」
「たのむよ。おとうさんも、はたけしごとは、はじめてなんだ。」
2
じゅうたくと くるまのとおりに かこまれた くみんのうえん。
「おはようございます。」
「いい おてんきですね。もう、しごとに とりかかっている ひとたちが たくさんいる。じぬしさんのいえで くわや シャベルを かりてきた。」
3
まず つちを ふかく ほりおこす。
ザクッ ザクッ ザクッ ザクッ。
ぷーんと つちのにおい。ほたかも はるかも
いっしょうけんめいだ。ところが…
「あっ みみず!」ほたかは シャベルを なげだした。「だんごむしだ。」「はさみむしもいる。」
もう つちを ほりおこすことなど わすれてしまう。
4
つぎの にちようび、たねと なえを かいにいった。
「きうり、えだまめ、だいこん、とまと… みんなやってみたいけど せまい はたけでは むりね。」
おかあさんは ためいきを つく。
「ほたか とまとが すき。」
「おとうさんも とまとが いい。たいようの したで まっかに うれた とまとを たべたいな。」
とまとのなえを たくさん かった。
5
「くさい、くさい。」
と いいながら ほたかは つちに ひりょうをまぜた。
みずを たっぷり ふくませた つちに
なえを いっぽん いっぽん うえていく。
6
とまとのなえは すくすく そだち、
ちいさな きいろい はなが さいた。
さいたあとに あおい とまとの み が
なった。
「はるかみたいに ちっちゃい とまと!」
ほたかは そっと、さわってみる。
7
ひざしが つよく なった。
やわらかい はに、あぶらむしが いっぱい ついている。
「くすりをまくと、からだに どくだから てで つぶそうね。」
おとうさんが いった。
ざっそうも いっしゅうかんで ぐーんと のびている。
「とまとの じゃまだ。よいしょっ、よいしょっ。」
8
あるにちようび そらが きゅうに くらくなって
ぽつぽつと おおつぶの あめが ふってきた。
9
あめは しだいに はげしくなり そらに しろい いなずまが はしった。かぜも ひゅうひゅう うなっている。
「がんばれ がんばれ とまと。」
「がんばえ がんばえ とまと。」
10
11
つぎのひ さんにんで はたけへ いった。
「すごい かぜだったわね。」
おかあさんは かたむいた しちゅうを なおす。
あめと かぜに まけた とまとが おちていた。
「あーあ かわいちょう。」
「もったいない…。」
12
やっと ぎらぎらの なつが きた。
「わーい ぴっかぴかの とまとだよ。」
ほたかも はるかも ぴょんぴょん とびはねる。
「さあ とるぞ!」
おとうさんが いった。
13
おおきいとまと
ちいちゃい とまと
でこぼこ とまと
くきを きずつけないように はさみを もつ。
ちょっきん
すとん
てのひらに ずっしりと おもたい とまと
14
がぶり。
「わあ あまーい!」
おいしいあじが くちいっぱい ひろがる。
「おいしい?」
「うん おいちい。」
「もう いっこ たべて いい?」
こんな おいしい とまとは はじめてだ。
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まちだファミリー
母・万里子さんは元小学校教師。長男の穂高さん、長女のはる香さんの育児中は専業主婦になり、手づくり絵本を通じて地域活動に励んだのち、教師に仕事復帰(現在は病気療養中)。父・弘さんは元高校教師で化学を教えていた。2016年より「ヒロシとマリコの手づくり絵本展」を開催し、縁のある場所を巡回している。インスタグラム:@mahiro_publishing
※まちだファミリーの「日常を愛で紡ぐ、小さな幸せの物語」は、『天然生活』2024年9月号、P.26~23に掲載されています。