ポートレートを待つ時間も、楽しみにしてくれて
――動物保護活動の一環で始めた本プロジェクトは、参加者である飼い主さんたちも、良い方ばかりと伺いました。
猫沢さん:みなさん、真摯にピュアな愛情を持ってくださってるんですね。私たちふたりでやっているとわかっていらっしゃるので、しょっちゅう遅れたり、止まったりしても、誰も文句をおっしゃらない。
もう何10人もお待ちいただいているので、1年後待ちとか1年半待ちですが、おもしろいのは、「できるだけ後ろに回してください」という方が、すごく多いことでしょうか。
他の方たちの物語を読んで、ポートレートが仕上がるのを待っている時間は、長ければ長いほど楽しいし、このプロジェクトに関わっていると実感できるからと。
だからポートレートをお届けすると、「すごくうれしいんですけど、帰ってきちゃって寂しい」ってみなさんおっしゃるんですよね。でもここから先も続くので、寂しくないですよとお伝えしています。
――みなさん、全員がこのプロジェクトの一員なんですね。
猫沢さん:そうなんです。想いを共有することによって、ひとつの大家族みたいな、それぞれが繋がっていく感覚もあります。
当初より、ニューヨークやスイスのバーセル、ドイツのベルリンからの申し込みもあり、出来上がったら必ずパリに迎えに行きますとおっしゃってくださっています。
その子の魂を迎えに行くんだっていう感覚なんだなと思うと、すごく感動するんですよね。
ここまで純粋な感情だけで動くプロジェクトって、 まずないんじゃないのかなと。
ポートレートを連れて帰る時も、カバンに入れるんじゃなく、抱いて帰られるんですよ。そういう姿を見ると、本当にやってよかったねって。
ヤンさん:始めたときはこんなふうになるとは思っていませんでした。
猫沢さん:職業も住んでいる場所も違う中で、動物を通してお互いにわかり合っていく、関係性を作っていくのがすごくいいなと思っています。
―――これからの目標について、お聞かせください。
猫沢さん:まずは100ピースを目標に、それが終わったら200ピースを目標に、展覧会を開きたいんです。
みなさんポートレートが届いてから額装されるんですけれど、たとえば大分にお住まいの方は、家が民芸調なんですって。
虎猫に合わせて民芸と調和する額を選ばれて。その額ごとお借りして、見せたいんですよ。
ヤンさん:飼い主さんもアーティストのひとりとして参加してもらいたい。
同じフォーマットのポートレートなのに、いろいろな額の子たちが並んだら、さぞ素敵だろうなって思っていますし、飼い主さんたちにも実際に集まってほしい。
猫沢さん:今までメールでしかやりとりしていなかった方とお会いするのがすごく楽しみなんです。
集まった方はすぐ打ち解けて仲良くなって、強力なコミュニティーができるんじゃないかと思います。
ヤンさん:プロジェクトの中心は、飼い主さんなんです。
物語を書いて、写真を選んで、僕たちはそれを具現化する役割を果たすけれど、みんなで大事な動物の命を再編しようとするところで、みんなが平等、飼い主さんもアーティストである、参加者であるっていう。
猫沢さん:始めるにあたって、こういう風になっていくんじゃないかなと予想していたのが、たった1年ちょっとで、その予想を軽く越える素晴らしいリアクションをいただいています。
これからもそういうことがどんどん起きて、ますます大きくなっていくと感じています。
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さまざまに額装された100ピースのポートレートと、飼い主とペットの物語が展示された展覧会の様子は、目に浮かぶようです。
2022年4月にスタートしたプロジェクトはすでに25頭ほどのポートレートができあがりました。
予約待ちが60頭くらいあるそうですが、随時募集中。応募条件を満たしていれば、犬や猫に限らず、鳥でも金魚でもヘビでもなんでも応募可能です。詳細はヤンヤンプロジェクトのインスタグラム(下記参照)をご確認ください。
写真/猫沢エミ、林紘輝(インタビュー) 取材・文/長谷川未緒
猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏し、2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー『BONZOUR JAPON』の編集長を務める。超実践型フランス語教室「にゃんフラ」主宰。2022年2月から猫2匹を連れ、二度目の渡仏、現在はパリに暮らす。一度目のパリ在住記を綴った『パリ季記』(扶桑社)のほか、『猫と生きる。』(扶桑社)や『ねこしき』(TAC出版)、『猫沢家の一族』(集英社)など著書多数。昨年12月に出版された料理絵本『料理は子どもの遊びです』ミシェル・オリヴェ著/猫沢エミ訳(河出書房新社)のシリーズ第三弾、『コンフィチュールづくりは子どもの遊びです』が9月発売予定
インスタグラム:@necozawaemi
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ヤン・ラズー(Yann Lazoo)
1969年パリ郊外に生まれる。パリ第6大学(ピエール・マリー・キュリー大学)物理専攻量子学科の大学院へ進み、ヨーロッパ内企業の数学講師など絵を務める。同時に10代からアメリカンコミックやバンド・デシネ(フレンチスタイルのアート漫画)の世界に傾倒し、デッサンを独学で始める。20歳の頃、フランスの最大手メディアストア《fnac》の新人バンド・デシネ・アーティスト大賞に選ばれたのをきっかけにプロデビューする。
27歳のとき、量子学の世界から画家へ完全転向。その後グラフティースタイルの壁画制作と、雑誌・出版物へのイラストレーション活動をふたつの柱に、アートフェスティバルのプロデュース、ディオールのデフィレ会場壁画制作、パリ市内中学校の内装壁画制作など幅広く活動中。今回ヤンヤンが使うデッサン画のテクニックは、クラシックな写実の技法だが、モデルの呼気も取り逃がさない繊細なタッチは、まさにフレンチリアリズムと言える。元数学者の左脳と、クリエイションを生み出す右脳がバランスよく内在した、クリアかつ、あたたかな表現が特徴。
インスタグラム:@yannlazoo
ヤンヤンプロジェクト
インスタグラム:@projet_de_yannyann
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