• 石川・能登で炊き出しをした旅する料理人・三上奈緒さんと、その様子を記録した映像作家の小川紗良さん。実際に被災地へ行ったからこそ気づいたこと、感じたこと。東京に暮らすおふたりが、映像を通して本当に届けたいこととは、いったい何なのでしょうか。

    被災地から離れた場所で

    だれかと食を囲む大切さ

    画像: 小川さんのインスタグラムに投稿された、みんなで囲んだある日のごはん

    小川さんのインスタグラムに投稿された、みんなで囲んだある日のごはん

    小川紗良(以下、小川): 私の同世代は社会人5~6年目くらいなんですけど、実はいま、心の調子を崩す子が多いと感じていて。良い大学を出て、大企業に勤めても、そこであくせく働くうちに心が折れてしまう子もたくさんいるんです。

    そういう子たちに私がよく聞くのは、「最近、何食べてる?」ということ。

    「元気?」って聞くと「うん大丈夫」って答えちゃうから。

    聞くと、「牛丼チェーン」「コンビニ弁当」「レトルト食品」なんて答えが返ってきます。

    だからよく友達を呼んで、うちの円卓で手づくりごはんを一緒に食べるっていうことをやっているんです。

    三上奈緒(以下、三上): 「母ちゃん」みたい(笑)。

    食べるものを、自分でつくる

    ——小川さんのインスタグラムで、たびたびアップされているごはんは、どれもおいしそうですよね。

    小川: あれもみんなで囲んで食べたり、ときにはエビの背ワタをとるのを手伝ってもらったり(笑)。

    実家でそういう経験をしてこなかった子も多いし、忙しい都会暮らしで原体験が希薄になっていることに、危機感を感じていて。

    自分は、幸運にも田舎があって、親も共働きのなかでごはんをつくってくれた。保育や学校でも食育が充実していた。それをいま、還元しています。

    本当にみんな、パックごはんばかり食べてるんですよ。

    炊飯器や包丁すらも持っていない人もいます。

    三上: そうなんですね。

    小川: そう。土鍋でごはんを炊くだけで、みんな感動してくれる。意外と近いところに“炊き出し”を必要としている人がいる。ここで大きな地震が起きたら、どうなるんだろうと心配しています。

    三上: 私も同じように思います。

    小川: 本当に目の前のお金や、すぐ目の前の仕事のことで精一杯で、生活は二の次なんですよね。でも、いまの世の中では、そうなってしまうのも理解 できます。

    自分たちが暮らす国に、起きていること

    三上: 今回、能登で、“顔の見える食材を使って”炊き出しをやりながら思ったのは、良いものを使うってそれなりのお金がかかるということ。

    でも、炊き出しだから、安いものでたくさんつくるというのは違う。ましてや子どもたちにとっては、成長期の体をつくる大切な時期です。

    オーガニックはお金持ちのもの、という発想があるとすれば、そもそもそれが違う。本来はちゃんとした食べ物は、だれの手にも届くものでなければいけないし、国産、伝統、環境に配慮した農法など、そういった生産者のものが届く社会であってほしい。

    私たちはもう少し食に対して真剣に向き合わないと。安い食を選んで高い服を買っている場合じゃない。日本の食教育が足りていないとも感じています。農業人口が減るなかで、このままでは、ふたを開ければ「私たちのごはんがない!」っていうことが起きてしまう。

    すでに起きかけていますが、それは、消費者の選択の積み重ねによるものも大きいかもしれません。

    画像: 献立とともに連ねられた、生産者の名前。志ある生産者からたくさんの食材が届けられた。米は五分づきにこだわった

    献立とともに連ねられた、生産者の名前。志ある生産者からたくさんの食材が届けられた。米は五分づきにこだわった

    これまでも、これからも

    小川: 先日、アメリカに行ったのですが、現地の友人が、日本の大豆自給率が7%程度だということに驚いていました。

    「しょうゆ、味噌、豆腐の国なのに?」って。

    これだけ豊かな土壌があるのに、ほとんどを輸入に頼っている。能登で取材を続けるなかでも、震災被害で離農する人がすごく多くて。

    能登町の陽菜実園はもともと柿を栽培していたれけど、周辺の離農した農家からブルーベリーや栗の畑を引き継いだ。ここで踏ん張らないと、一度荒れた畑を再生するのは大変だから、死守しようとしている。そういう人がいて「なんとか保たれている日本の食」というのを間近で見て感じました。

    『NOTO, NOT ALONE』の映像もこれからまた続きを撮り、単なる能登の震災ドキュメンタリーではなくて、ゆくゆくは震災をきっかけとした日本の食のドキュメンタリーとして届けられたら、って思っています。

    三上: 「能登のために」ということもあるけど、これは「日本のために」という言葉に置き換えられる。

    あなたが住んでいる国の一部ですよ、だから能登に無関心でいるということは、自分たちの未来に無関心だということですよ、って。

    これは訪問先の状況も確認したうえでの話になりますが、募金も大切だけど、その1万円を握りしめて能登に来たらいいじゃない。

    「来て、見て、わかって、持って帰る」だけでも、これは未来にとってすごくプラスになること。「ボランティアをしたいけれど、私には特技がないのです」と相談を受けたことがありますが、そんなことは関係ないんです。

    まず能登に来てみたら、感じることがあるはずです。それから動いても遅いことはありません。それに、話し相手になるというだけでも、本当に意味があることです。それは相手にとっても、自分にとっても。

    小川: 東京で心が折れた若い子たちもみんな、部屋にこもってパックごはん食べてないで「行っておいで」って伝えてあげたいなと思っています。

    ——三上さんと小川さんは引き続き、能登の支援をしていくそうです。本連載でお伝えしたドキュメンタリー『NOTO, NOT ALONE』 を通した「能登からつなぐバトンプロジェクト」が始動。全国各地で、自主上映会が開かれています。食、文化、コミュニティなど、能登で学んだバトンを手渡す活動。ぜひ注目してください。

    画像: 各地から集まったボランティア仲間。キャンプや農業など、自然に近い暮らしをしている人達がいち早く動いた

    各地から集まったボランティア仲間。キャンプや農業など、自然に近い暮らしをしている人達がいち早く動いた

    画像: これまでも、これからも

    ドキュメンタリー映像作品『NOTO, NOT ALONE』の記録

    画像: 石川県立飯田高校。三上さんの呼びかけで集まったボランティアが、約180人分の”給食”炊き出しを10日間続けた

    石川県立飯田高校。三上さんの呼びかけで集まったボランティアが、約180人分の”給食”炊き出しを10日間続けた

    国内外を軽やかに飛び回り、ごはんをつくる“旅する料理人”三上奈緒さん。彼女は2024年3月、令和6年能登半島地震で被災した石川県珠洲市にある県立飯田高校で”給食”の炊き出しを行いました。そこに映像作家の小川紗良さんが密着しました。

    <取材・文/山下リョウコ  撮影/小川紗良>


    三上奈緒(みかみ・なお)

    画像1: ドキュメンタリー映像作品『NOTO, NOT ALONE』の記録

    東京農大卒。学校栄養士、レストランを経て、旅する料理人として活動。「顔の見える食卓づくり」をテーマに、食を 通じて全国各地の風土や生産者の魅力を繋ぐ。「おいしいってなんだ?」を軸に学校授業を組み、菜園教育をする「Edible schoolyard」 に関わるなど食教育にも力を入れる。食の根源を追い求め、縄文倶楽部や、火を囲む野外キッチンをつくり上げる。雑誌『Soil mag.』(ワンパブリッシング)、『料理王国』(JFLAホールディングス)での連載やラジオ出演と活動は多岐にわたる。

    https://www.naomikami.com/

    小川紗良(おがわ・さら)

    画像2: ドキュメンタリー映像作品『NOTO, NOT ALONE』の記録

    1996年東京生まれ。文筆家、映像作家、俳優。俳優として、NHK「まんぷく」(2018〜2019)、ひかりTV「湯あがりスケッチ」(2022)等に出演。初長編監督作「海辺の金魚」(2021)は韓国・全州国際映画祭にノミネートされ、自ら小説化も手がけた。2023年1月からはJ-WAVE「ACROSS THE SKY」(毎週日曜あさ9時~12時)にてラジオナビゲーターを務めている。同年3月、活動拠点として「とおまわり」を設立し、「ときめく遠回りをしよう」をコンセプトに 読みもの・映像作品・暮らしの道具などを届けている。

    とおまわり https://tomawari.jp



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