(『天然生活』2021年9月号掲載)
茶人だった高祖母から受け継がれた、器への想い
器や道具を扱う「MORIS」にて店主・森脇今日子さんと店に立つ、母・ひろみさん。
かつてひろみさんも器店「陶碗人(とわに)」を営んでいました。器好きになったきっかけは古伊万里。ひろみさんの母親が愛用していたそうです。
「母の実家は淡路島の旧家で、江戸時代後期には当主が茶人だったんです。日頃からお茶と親しみ、古伊万里を食卓で使っていました。心の中にそのことが残っているんでしょうね、結婚してから集めるようになりました」
好きだったみじん唐草から集め始め、目利きの骨董店で教わりながら、こつこつと少しずつ。
「だけど阪神・淡路大震災で多くが傷ものになって。それから置いておくだけではもったいない、使ってこそ意味があると思うようになりました。使っていれば何かあっても寿命と思えますから」
朝食のトーストは6寸皿にのせていただき、ヨーグルトは蕎麦猪口で、日々気軽に古伊万里を楽しんでいます。
「家にあるのは本当に使いたいものだけ。幼いときから娘2人の食事も焼き物でした。割れてしまってもそこから大事にする気持ちが芽生えてくれたらいいなと思って」と、ひろみさん。
今日子さんは「家にあるもので嫌だなと思うものはひとつもない。自分自身でよさを感じ、このまま日常のなかで引き継いでいきたい」といいます。
ひろみさんが大事にしてきたものも、ものを見る目も、自然と引き継がれています。
お茶一服の時間をもつことも、日々のなかで続いてきたこと。雛祭りのお軸は大正時代に生まれたひろみさんの母親に贈られたもの。
「お軸や短冊は掛けるだけで場が変わります」とひろみさん。
英国に暮らす長女・佐知子さんも短冊を飾り、よく一服点てているそう。いつのまにか暮らしに溶け込んでいる、それが家族から受け継ぐということかもしれません。
暮らしとともに受け継ぐ、日常使いの美しいもの
お茶一服の落ち着く時間
菓子を盛る賀集珉平(かしゅうみんぺい)の古い器と漆の箱は、ひろみさんが家族から受け継いだもの。
壁に掛けたお雛さまのお軸は、ひろみさんの母親のために絵師が描いたもので、90余年経たいまも美しいまま。
旅茶碗は細川護光(もりみつ)さん、茶入れは内田鋼一さんによるもの。古いものと新しいものを楽しむセンスは今日子さんに受け継がれていきます。
料理を楽しむ、圡楽窯の土鍋
器好きが高じ、ひろみさんが窯元めぐりを始めて間もなく、伊賀の圡楽窯で買ったもの。
「しっかり乾かすくらいで特別な手入れはしていませんが、30年以上現役。思いのほか軽く、モダン。当時の職人の力量を感じます」とひろみさん。
白菜たっぷりのピェンローや、料理家ウー・ウェンさんのレシピで酒粕肉団子もよくつくるそう。
こつこつ集めた古伊万里
みじん唐草をきっかけに古伊万里を集めてきたひろみさん。
お気に入りの豆皿は漆塗りのお重に。愛らしい染付に心躍ります。
ひょうたん形の豆皿は三田青磁、裏の足もひょうたん形。
「気張っているものもたまにはいいけれど、力の抜けたものが使いやすくて好き」とひろみさん。
「増えていく一方ね」と母娘で笑い合います。
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▼森脇ひろみさん、今日子さん、そのほかの記事はこちら
〈撮影/わたなべよしこ 取材・文/宮下亜紀〉
森脇ひろみ(もりわき・ひろみ)、森脇今日子(もりわき・きょうこ)
神戸・六甲にて「MORIS」を営む。横山秀樹、内田鋼一など、取り扱う作家には母・ひろみさんからのご縁も。https://moris4.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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