(『天然生活』2022年5月号掲載)
藤井まりさんと精進料理。「この料理は飽きない」
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
自らは仏門に入った経験のない藤井さんが、精進料理の指導にあたるようになったのは、かつて修行僧として各地の禅寺で典座(てんぞ)(修行僧の食事をつくる役職)を務めてきた宗哲師が、精進料理塾を始めたことがきっかけでした。
「思いがけない流れで始めたことが40年も続いてきたのですから、わからないものですね」と語る藤井さんが、いまになって実感するようになったのは、「この料理は飽きない」ということ。
「何もかもプラス、プラスのこの時代に、そぎ落としてそぎ落として、最低限のものだけを残したのが精進料理です。私自身は団塊の世代で、パスタだピザだと片仮名文字のものも山ほどいただいてきましたが、やはりここに戻ってくるんだな、という実感があります」
「教室には、若い方もシニアの方もいらっしゃいますが、皆さん、口をそろえておっしゃるのは、『なんかほっとする』と。旬の素材を使い、日本古来の発酵調味料と塩で味をつける精進料理は、日本人のDNAに染み込んできた味覚に通じるのだろうと思います」
禅の修行道場での朝の食事は、おかゆと漬物という質素なもの。
「禅宗は、おかゆに『色・力・寿・楽・詞清弁(ししょうべん)・宿食(しゅくじき)が除かれる・風除かれる・飢消える・渇(かつ)消える・大小便を調達する』の十徳があるとして大事にしています。私には、朝、おかゆをいただく習慣はないのですが、お坊さんに聞くと、体が完全に目覚める前の朝、消化がよく腹持ちのよいおかゆをいただくことは、理にかなっていると感じます。以前、教室に参加してくれた若い男性が、風邪を引いて寝込んだ日はコンビニのごはんが食べられない、子どものころに母がつくってくれたおかゆを食べたくなる……と話してくれましたが、その気持ちは私もよくわかります」
禅に学ぶ、朝と食の習慣
禅修行の朝食はおかゆ
禅の修行道場で「粥座(しゅくざ)」と呼ばれる朝食の献立はおかゆと漬物。
藤井さんが朝食におかゆを食べることはあまりないものの十徳があるといわれ、消化のよいおかゆを朝食べることは理にかなっていると語る。
いもがゆ
材料とつくり方(2〜3人分)
1 米1合と赤米・黒米(合わせて)大さじ1を合わせてとぎ、米の5倍(975mL)の水とともに土鍋に入れて30分おく。長いも30gは5〜8mm角に切り、酢少々を入れた水にさらす。
2 1の土鍋を強火にかけ沸騰したら底から大きく混ぜる。長いもを加え、ふたをして弱火で2〜3分炊く。火を止めて10分以上蒸らす。
3 器に盛り、ゆかり適量をふる。
禅に学ぶ、朝と食の習慣
一汁二菜の朝ごはん
藤井さんの朝食の定番は、ごはん、味噌汁、卵、漬物。春先の味噌汁には地物の天然わかめを使うことも。
長年、料理教室でも使ってきた漆の器を、禅宗の修行僧が用いる「応量器(おうりょうき)」のように組み合わせて使っている。
「かぶとあおさの味噌汁」のつくり方
材料とつくり方(2人分)
1 かぶ1個の実は皮をむいて食べやすい大きさに切り、葉は細かくきざむ。
2 鍋に昆布だし2カップ、かぶの実を入れて中火にかける。かぶがやわらかくなったら味噌大さじ2を溶き入れ、かぶの葉、乾燥あおさひとつかみを加えてひと煮立ちさせる。
「絹さやの玉子とじ」のつくり方
材料とつくり方(2人分)
1 絹さや10枚はへたと筋を取って斜め半分に切る。
2 鍋に昆布だし1/2カップ、しょうゆ小さじ1、塩ひとつまみを入れて中火で煮立て、絹さやを煮る。火がとおったら溶き卵2個分を回し入れる。2〜3分煮て火を止め、好みのかたさになるまで余熱で蒸らす。
<料理/藤井まり 撮影/山田耕司 構成・文/保田さえ子>
藤井まり(ふじい・まり)
精進料理教室「鎌倉不識庵(ふしきあん)」主宰。夫である故・藤井宗哲(そうてつ)とともに精進料理の指導を始めて40年。自宅での教室のほか、国内外各地へ赴き、講師を務める。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです