(『天然生活』2022年11月号掲載)
外に目を向け、ありのままの世界とともに生きる
音楽家の高木正勝さんは、10年前から京都の山奥で畑を耕し、自然に近い暮らしをしています。
窓を開けて聴こえてくる虫や鳥、風の音を主旋律に、ピアノを調和させてつくる楽曲「マージナリア・プロジェクト」にもつながる言葉が、幸せに気づかせてくれるそう。
「独りよがりに演奏していると、虫も鳥も鳴き止んでしまうんです。彼らは夫婦になって子を産むために鳴いているのですから、じゃましないように合わせていくと、出てくるべき音が出てくるし速さも決まってくる。
生きものがたくさん鳴いてもっと増えてほしい。そのために自分が役立てばと勝手にやっていることですが、ロビンさんの言葉通り、それがしてほしかったんだよ、ありがとうという歌が返ってきたら、うれしいですね」
いつの日か、この世界がお返しに、
人間に感謝してくれる、
その言葉が聞こえることを
心の底から願いながら。〈『植物と叡智の守り人』ロビン・ウォール・キマラー著 三木直子訳(築地書館)より〉
ふたつめは、宮沢賢治の妹が亡くなる前に語った言葉。病気がちで、自分の苦しみにとらわれて一生が終わるけれど、生まれ変わったら他者のために生きたい、ということだと思う、と高木さん。
「幸せとは小さな自分から解放されて、ありのままの世界に気づくことだと思い出させてくれます」
(うまれでくるたて
こんどはこたにわりゃのごとばかりで
くるしまなぁよにうまれてくる)〈『新編 宮沢賢治詩集』「永訣の朝」宮沢賢治著(新潮社)より〉
〈文/長谷川未緒〉
高木正勝(たかぎ・まさかつ)
音楽家・映像作家。ドラマ、映画、CM音楽やエッセイ執筆等で活動中。山村にある自宅の窓を開け自然を招き入れたピアノ曲集『マージナリア』などを制作。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです