(『天然生活』2022年11月号掲載)
目の前のことに取り組み、安心して生きていく
「機嫌よく、人に親切に暮らすことが私の幸せなのですが、親切って何? と考えると、自分も人も安心させることだと気がつきました」
そう語るのは随筆家の山本ふみこさんです。コロナ禍で世の中が汲々とするのを見て、また大学生と語る機会を通じて、安心感が不足していると思い至ったそう。
「大学生たちは少なからず、未来を心配しています。目の前のことを精一杯やれば道は開けるよ、と思うんですが。私の友人世代も同じ。寝たきりになったらどうしようとか、まだ起きていないことに悩んでいます。どちらも安心という柱がないからではないか、と」
「あるジャム屋の話」は人づきあいの下手な青年が、不思議な牝鹿との出会いにより変わってゆく物語。牝鹿のセリフを読むたびに安心感を覚え、涙があふれるそう。
「こういうこと、たまにいったり思ったりしたいし、こんなふうに生きたいです。人生は、目の前に置かれたことを受け止め、向きあっていけば、なかなかいい感じに進むもの。自分を安心させたり、接する人に安心を与えることを、幸せと呼ぶのでは、と思うのです」
「ほんとうにほしいものは、なんにもないんです」
「いつまでもいっしょにいられたら、それでいいんです」〈『春の窓』「あるジャム屋の話」安房直子著(講談社)より
〈撮影/近藤沙菜 文/長谷川未緒〉
山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
北海道生まれ。暮らしまわり、生活と社会を見つめるエッセイを執筆。「ふみ虫舎通信エッセイ講座」主宰。2021年春、都心から埼玉県熊谷市に移住。新生活をブログで綴る。
https://www.fumimushi.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです