• 日照時間がだんだんと短くなり、夜の時間が徐々に長くなってくるこれからの季節。チクチク、コトコトといった手仕事がよく進みます。ライア奏者の山下りかさんに、夜時間・夜仕事を伺いました。
    (『天然生活』2023年10月号掲載)

    虫や鳥、動物の鳴き声に響きの音色をそっと重ねて

    「このあたりは車の音がいっさい聞こえず、とても静かです。夜になると虫の音のほか、フクロウやタヌキの鳴き声が聞こえることもあるくらい。それから、周囲に家も少ないため月の満ち欠けを感じるようになりました。満月に向かって行くときは徐々に庭が薄明るく見えるようになり、また、新月には暗闇の体験ができるんです」

    約3年前、東京都内から神奈川県鎌倉市に拠点を移した山下りかさん。バス通りから小道に入ってしばらく進み、さらに100段以上の階段を登ったところにある家のひとつがその住まいです。

    友人に手伝ってもらい、自身の手で整えたという築50年ほどの古民家。キッチンとダイニングの床に敷き詰められたレンガを、階段を何度も往復して手で運んだというエピソードには驚かされるばかりです。

    「季節もめぐり、この家や土地にようやくなじんできたように思います。それから、ひとり暮らしにも。都内の家では娘とふたり暮らしだったのですが、引っ越しを機にひとり暮らしを始めました。24時間すべてが自分だけのものだなんて、実に数十年ぶりのこと。はじめは開放感でいっぱいでしたが、徐々にさびしさを感じることもありました。といっても、改装作業や薪割りなど、自分ひとりでやらなければいけないことも多く、さびしさを感じるひまもないほど、あれこれと手を動かしています

    そんな山下さんの夜時間に欠かせないのが音楽の演奏。空気を震わせて音を響かせるライアやシンバルは、とくに秋は内側に音色が響くよう。濃い闇夜に静かで愛らしい音色がよく似合います。

    ほかにも庭で育てたバラでジャムやシロップをつくったり、薪ストーブ用の薪の余った木材を削って楽器をつくったりと、実に温かみのある手仕事が挙げられます。

    気楽に買い物に行くという考えをやめて、以前にも増して工夫をするようになりました。日中は庭仕事に時間を割くことも多いので、夜は家の中でできることが自然と多くなって。ライアの演奏もですが、夜に無心になって手を動かしていると、どこか心が落ち着きます。これから夜がより長くなるので、有意義に過ごしたいですね」

    酵素ジュースをつくる

    画像: 材料は梨と上白糖、ハーブなど。皮や種、芯も一緒に漬け込む。「庭のバラの花びらも加えてみます。一日に一度、手でやさしくかき混ぜ、1週間ほどで完成です」

    材料は梨と上白糖、ハーブなど。皮や種、芯も一緒に漬け込む。「庭のバラの花びらも加えてみます。一日に一度、手でやさしくかき混ぜ、1週間ほどで完成です」

    季節の果物でつくる酵素ジュースは山下さんの夜仕事のひとつ。

    「仕込んでから毎日かき混ぜるのですが、果物の変化に実際に手で触れられる楽しい作業です。夏は発酵が進む速度が速かったのですが、秋はじっくりとでき上がります。季節の果物で」

    朝ごはんの焼き菓子を焼く

    画像: グラノーラは全粒粉とピーカンナッツ、メープルシロップの相性が絶品

    グラノーラは全粒粉とピーカンナッツ、メープルシロップの相性が絶品

    子どもたちが小さなころからずっと焼きつづけてきた焼き菓子。レシピをそらでいえるほど山下さんに浸透している。

    「パウンドケーキはバラシロップを加えてつくってみました。グラノーラはサンフランシスコのナチュラルグロッサリーで求め食べていた味の再現を」

    木を削って楽器をつくる

    画像: 奏でるときは手のひらを軽く丸めて共鳴版に

    奏でるときは手のひらを軽く丸めて共鳴版に

    画像: 小刀で樹皮をそぎ落とす

    小刀で樹皮をそぎ落とす

    現在の住まいで小ぶりな薪ストーブを導入。森に入って伐採もみずから行っているそう。

    「薪にならない細い枝を利用し、小刀で削って『クラベス』という小さな打楽器をつくっています。木の種類や太さによって音色に違いがあり、いくつつくっても飽きません」

    響きの練習をする

    画像: 手のひらサイズの小さなシンバル

    手のひらサイズの小さなシンバル

    画像: そっと合わせると、やさしい音色が響く

    そっと合わせると、やさしい音色が響く

    ライア(竪琴)との出合いは子どもたちが学んだシュタイナー教育がきっかけ。20年以上続けている。現在はライアの講座の指導や演奏活動を行いCDのリリースも。

    「こんなふうに楽器を抱えて演奏します。静けさを呼ぶ楽器といわれ、弾くと心が平静になります」

    バラでオイルやシロップをつくる

    画像: 左はバラ科のヘビイチゴの実のグリセリン漬け。虫さされに効くお守り的存在

    左はバラ科のヘビイチゴの実のグリセリン漬け。虫さされに効くお守り的存在

    庭に数種のバラを育てていて、花が咲くたびに花びらを集めてはシロップやローズエキスをつくっている。

    「今年はバラジャムもつくりました。花びらを煮たら色がくすんでしまったのですが、レモン汁を加えたら花びらよりも鮮やかな色になり、心が躍りましたね」

    夜のコツコツ時間のお供
    びわの葉茶

    画像: 夜のコツコツ時間のお供 びわの葉茶

    葉を細かくきざんで発酵〜乾燥させて保存。飲む前にから炒りして煮出す。

    「弱った胃腸に効き、鎮静作用もあるそう」



    <撮影/砂原 文 構成・文/結城 歩>

    山下りか(やました・りか)
    スタイリストとして雑誌『オリーブ』のスタイリングなどを手がけたのち、渡米。長男・長女を出産後、シュタイナー教育と出合い、それがきっかけで、のちにライア奏者となる。シュタイナーの考え方から学んだ音楽や季節の手仕事にも造詣が深い。現在は響きと声の手仕事のワークショップを多数行っている。http://rikayamashita.com/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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