(『天然生活』2023年11月号掲載)
“心”はいくつになっても若返らせることができる!
感情の老化とは、気持ちのコントロールが利かなくなり自発性や意欲が失われていくこと。なんだかやる気が出ない、怒りっぽい、不安がぬぐえないなどが症状としてあげられます。
感情の老化は、思考や感情を司る脳の前頭葉が加齢で縮むことが原因と、精神科医の和田秀樹先生はいいます。
「前頭葉の萎縮は早い人は40代くらいから始まります。さらに、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が加齢とともに減ることで不安やストレスが強まり、ますます感情が衰えてしまう。65歳以降にうつ病の発症リスクが高まるのはこのためです」
心を老けさせないためには、日光浴やタンパク質の摂取でセロトニンを増やし、前頭葉を刺激する考え方や行動をすることが大切。
「物事を決めつけず悲観せず、どんなときもチャレンジ精神をもって行動すれば、前頭葉はいくつになっても活性化します。自分が幸せと感じることを生活に足していく意識ももちましょう。60代以降、体と脳は確実に老化しますが、心は自分次第で若返りが可能です」
ひとつでもあてはまったら、感情老化のサインかも?
心の老いチェックリスト
□ 最近、何かで感動して涙を流した記憶がない
□ 「この歳で始めたって遅い」とよく思う
□ 好奇心が減っている
□ 最近、自分からだれかを遊びに誘っていない
□ 自慢話、昔話、説教をしがち
□ 昔よりイラッとくることが多い
□ 若者の考えはよくわからないと、しばしば思う
□ あることが気になったら、しばらく気にしつづける
□ お金を使って楽しむより、老後に備えてお金を貯めたい
□ 本や映画にあまり興味がない
感情の老化を防ぐための心のもちよう 01
物事にはグレーな部分があると考える
脳の前頭葉が縮んでいくと、「かくあるべし」という決めつけや「白か黒か」「善か悪か」といった二分割思考に陥りやすいことがわかっています。
こうした傾向が表れると思考がどんどん偏り、自分にも厳しくなって、うつ病を発症することも。
それを防ぐためにも極端な決めつけは改め、物事にはグレーの部分がありいろんな見方ができると考えましょう。
たとえば人と会話するときは、少し自分と違う意見があっても「だいたいは同じ」「そういう考えもある」のように捉えれば腹が立ちません。
また、自分に対しては「3割できたら上等」くらいのおおらかさで完璧主義をゆるめましょう。
感情の老化を防ぐための心のもちよう 02
まずはやってみる
子育てが一段落したり仕事のペースが落ち着いてきたり、年齢を重ねるにつれて時間に余裕ができる人は多いでしょう。「暇だ」「必要とされない」と落ち込まず、絶好のチャンスと捉えてみては。
セロトニンの分泌減少が顕著になる65歳以降はとくに、「やりたいことは何でも挑戦する」くらいの気持ちが重要です。
前向きな姿勢によって、老化の進行を食い止める意欲が湧いてくるのです。
まじめな人ほど後先を考えて躊躇するものですが、たとえ失敗してもたいていのことはなんとかなります。
絵画や語学、そば打ちなど、興味のあることに「まずはやってみる」精神で踏み出しましょう。
感情の老化を防ぐための心のもちよう 03
落ち込んだときこそ行動を
何かにトライしてうまくいかなかった、予想外のショックなことが起きたなど、落ち込んだときはなるべく引きずらないことが大切です。
くよくよする時間が長いと、セロトニン不足の年代は深みにハマりやすいため注意してください。
別の事を試すなり、すっぱり忘れるなり、気持ちを切り替えて行動しましょう。
どうしてもネガティブな気持ちにとらわれてしまうときは、「なんとかなる」「なんてことない」と口に出してみて。不思議と心が軽くなります。
プラス思考ができると脳内のドーパミンが増え、楽しい、幸せと感じられることが増えて前頭葉の働きが活発になっていきます。
感情の老化を防ぐための心のもちよう 04
自分の幸せを優先する
家族や親戚、友人に気兼ねをして自分を抑えるのはほどほどに。遠慮や我慢を美徳とせず、ときには自分の幸せや時間を一番に考える「ミー・ファースト」の意識をもちましょう。
たとえば、何もしない家族にイライラしながら家事に縛られるのはナンセンス。家でもゆっくりできる自分の時間をもち、外に遊びに行く日があってもいいのです。
一緒にいる時間を減らしたり、自分の楽しみを見つけたりすることで気持ちに余裕が生まれ、家族の関係性が改善するかもしれません。
これまでがんばってきたのだから、自分が楽しむことを最優先に。我慢しない人ほど老け込まないものです。
〈監修/和田秀樹 イラスト/右近 茜 取材・文/熊坂麻美〉
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年生まれ。高齢者専門の精神科医として35年近く携わる、老年精神医学の第一人者。アメリカで学んだ精神分析学などを生かした老化予防法と再生医療を取り入れたルネクリニック東京院院長を務めている。『60歳からの脳と体が若返るワークブック』(扶桑社)、『65歳から始める 和田式心の若がえり』(幻冬舎)のほか、受験や教育に関する著書も多数。