(『天然生活』2021年10月号掲載)
読書時間は気分転換。音楽をかけてゆったりと
読書をするのは、ちょうど午後3時ごろのお茶の時間。
最近気に入っているという和紅茶の「ひのはら紅茶」やほうじ茶などを淹れ、ゆったりとした音楽をかけながら、ダイニングテーブルに座って本を読むのが小川糸さんの習慣です。
「読書は静かな環境でしたいので、家で読むことが多いです。この時間は完全に気分転換のためなので、あえてそのとき取り組んでいる仕事とは関係のない本を選ぶようにしています」
読みたい本はいつも手元に置いてあります。今回見せてもらった本のなかには、ページのところどころに付箋が貼ってあるものもありました。
どちらかというと広く浅くというよりは、同じ本を深く読み込むタイプ。
子どものころから隣の家にあった『ぐりとぐら』を飽きずにめくり、図書館にもよく足を運んで同じ本を繰り返し読んでいたといいます。
「一度読んだだけではわからないことも多いですよね。以前は気づかなかったことでも、繰り返し読むうちにようやく『ああ、そういうことか』と理解できたり、読むたびに心にひっかかる個所が違ったり。そんなふうにじっくり読んでいくほうが好きです。自分の作品も、そんなふうに読んでもらえたらうれしいですね」
縁や直感で出合った本を、繰り返し読み続ける
書店で偶然見つけた本や、雑誌などで紹介されていて気になった本、友人に薦められた本など。
小川さんが読む本には、そんなふうに「たまたま知って」手に入れたものが少なくありません。
「自分ではなかなか気づかないような本を友人に教えてもらうのも楽しくて。本との出合いは縁だと思っているので、その縁を大事にしたいです」
そんななか、自然と手元に集まってくるのが、宇宙や生命、魂などについて書かれたもの。
ここ数年は、それらについての興味が以前よりもさらに増してきているといいます。
「宇宙はどんな仕組みなのか、死とは、魂とはなにか。そういったことにずっと興味をもっているし、一生かけて考え続けることなのかなと思っています。同じテーマの本を読んだ友人たちと、死んだらどうなるんだろう、魂はどこへ行くんだろうというような話をすることもありますね」
そうした関心は、死をテーマにした『ライオンのおやつ』をはじめ、自分の書く作品の主題に重なることもあります。
本との出合いは、偶然のようで“必然”なのかも
とはいえ、午後のお茶を飲みながら読む本は、あくまでも純粋な楽しみ。
ためになる新しい知識や情報を得ようと意気込んで読書をするわけではありません。
「“無意識”ということを大切にしたいんです。何気なく読んだことが、時間がたってから自分が考えたことにつながるときもある。あまり身構えていない状態でふと気づくことのほうが貴重な気がします。たまたま手に取った本に、いまの自分にとってすごく大切なことが書いてあって、はっとすることも。そう考えると、偶然読んでいるように思えるけれど、実は必然なのかも。そのときの自分にとって重要なメッセージを、ちょうどいいタイミングで受け取っているのかもしれません」
どんな本を選ぶかは巷の情報や評価だけで決められるものではなく、きっとそのときの自分にしかわからないもの。
読んですぐには内容を理解できない本でもいいし、持っているだけでなぜか安心できる、お守りのような本だっていいのです。
「本にはもっといろいろな楽しみ方があっていい。あまり周囲の情報に左右されず、自分の直感にしたがって本を選んだり読んだりしていきたいです」
小川糸さんの「読書のおとも」
巴裡 小川軒の元祖 レイズン・ウィッチ
東京の老舗の一品。「レイズン・ウィッチは好きでいろいろなお店のものを試してきましたが、奇をてらわないシンプルさがおいしい。小腹を満たすのにもちょうどいいサイズです」
〈撮影/公文美和 取材・文/嶌 陽子〉
小川 糸(おがわ・いと)
2008年、『食堂かたつむり』でデビュー。同作品は2010年に映画化された。30冊以上の本を出版、多くの作品が様々な国で翻訳出版されている。『ライオンのおやつ』はテレビドラマ化。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです