(『天然生活』2023年11月号掲載)
長年家計簿を続けることで、自分の軸を持てるように
気持ちよく整えられた部屋には、重厚な雰囲気のアンティークの家具がしっくりおさまっています。一方、収納棚や冷蔵庫の扉を開けると、すべてのものにラベルが貼られていて一目瞭然。
家事アドバイザー・山﨑美津江さんの自宅には、暮らしを緻密に管理してむだをなくすスタイルと、好きなものや心を豊かにしてくれるものには惜しまず出費する姿勢がバランスよく共存しています。
「ものを買う際は、よく考えたり調べたりしてからが基本。たまに失敗するときもありますけどね」
そういって笑う山﨑さん。それでもお金に振り回されて汲々としている様子はありません。
健全なお金とのつきあいを支えているのは家計簿。予算を立ててお金を管理するという特徴がある、婦人之友社の「羽仁もと子案 家計簿」を45年以上つけているのです。
「それ以前は、基本的に行き当たりばったりの生活。お金への不安も常にありました。
でも、いまの家計簿をつけるようになってからは、わが家の経済状態全体を把握できるので、お金の使いどころを見極められるように。
常に我慢して切り詰めるのではなく、メリハリの利いた使い方ができるようになったと思います」
子育て中も、夫婦ふたり暮らしになったいまも、変わらずに記録しつづけ、もうすっかり暮らしの土台となっている家計簿。
「しょっちゅう予算オーバーよ」とおおらかに笑う山﨑さんは、大切なのは予算内に収められたかどうかと一喜一憂することではなく、「記録すること」なのだといいます。
「記録は嘘をつかないでしょう? 収入と支出を知ることで、自分の暮らし方がわかってくるし、むだな部分にも気づくんです。
そうして試行錯誤しながら、周りに流されない、自分だけの軸を持つことができるはず」
何にお金をかけて、何にかけないかは人から教えられるものではなく、一人ひとりが生活のなかから見出していくもの。
その助けとなってくれるのが家計簿なのだと、半世紀近くこつこつと続けてきた山﨑さんは力強くいいます。
「家計簿の管理力は、生活の防衛力。暮らしの足元をしっかり見て、その実像を知ることでお金に追われず、価値高く使うことができるのだと思います」
山﨑美津江さんの、お金の管理の工夫
家計簿を中心に、毎日の収支をきちんと把握する。それが山﨑さんの生活を長年支えてきた基盤です。
「家計簿をつけていないと、お札に羽が生えて飛んでいってしまったような心許ない感覚になるんです」
管理01 45年以上つけつづけている家計簿で合理的に
結婚して数年後からずっとつけている婦人之友社の家計簿。「最近はスマホやパソコンで入力できるデジタル版があるので楽になりました」
予算を超過することもありますが、つけつづけることで暮らしの実像や課題が見えてきて、お金の使い方を合理的に判断できるといいます。
「家計簿は面倒と思う人も、まずは1週間つけてみては。4倍すれば、1カ月で使うだいたいの額が見えてきます」
管理02 カード利用や光熱費など、口座引き落としの控えは頻度別に
口座から引き落とされる光熱費や保険料、税金などの書類は頻度別にファイルに分けて保管。「こうするとお金の流れを把握しやすくなります」
また、クレジットカードでの買い物は、カードの利用控えを明細と照合して金額を家計簿に転記、引き落としが完了したら処分します。
最近思いついた、利用控えをノートに貼る管理法は、「手を動かすと頭にも入りやすいから」と気に入っています。
〈撮影/林 紘輝 取材・文/嶌 陽子〉
山﨑美津江(やまさき・みつえ)
家事アドバイザー。1948年、東京都生まれ。長女を出産後に「全国友の会(月刊誌『婦人之友』の読者の会)」に入り、整理収納や掃除など、家事の技術を磨く。家事について各地で講演を行ったり、『婦人之友』をはじめさまざまな雑誌やテレビに出たりなど、幅広く活躍中。著書に『再出発整理』(婦人之友社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
天然生活2024年11月号の特集は「私流、お金をかけない楽しい暮らし」。
野菜や保存食をつくったり、シェアしたり。
支え合い、自然とともに営む暮らしからは真の豊かさとは何なのかが伝わってきます。
俳優の財前直見さん、手づくり暮らし研究家の美濃羽まゆみさん、布作家の早川ユミさんに、周囲とつながりながら支え合う新しい暮らし方を取材しました。
ぜひご覧いただけましたら幸いです。
天然生活 2024年11月号
https://shop.tennenseikatsu.jp/items/91553830