(『天然生活』2023年7月号掲載)
心に響くものだけを厳選した「気」のめぐる家
衣食住のスタイリストとして活動する大田由香梨さんが暮らすのは、都内の古いマンションの一室。
ものが少ないためか、キッチンもリビングもことさら広く感じられ、自然と気持ちが落ち着きます。
「私にとって、家はいやしの場であり、ゼロに戻って自分と向き合う場所。できるだけものは削ぎ落として、自分に立ち戻れるようなものだけを置くようにしています」
パートナーと暮らす家では、ゆったりと音楽を聴いたり、本を読んだりするほか、友人たちと食事を楽しむこともしばしば。テレビや雑誌などは置いていません。
「情報量が多いと、それに思考がとらわれてしまう気がして。ものも同じで、多すぎると片づけなければ、整理しなければ、と気持ちがあせって苦しくなってしまいます。自分が無理なく気を配れる程度の量が心地いいと感じますね」
もうひとつ大田さんが大切にしているのは、家の中の気をスムーズにめぐらすこと。そのために、余白のある空間づくりを心がけているといいます。
「もので埋め尽くされていると、家の中の気が淀んでしまう気がして。そういう空間では、不思議と服なども傷みが早いんですよね。常に気がスムーズにめぐるよう、定期的に見直しをして、ものが増えないようにしています」
すべてのものが活躍する、心地よい空間に
2年前から千葉県にトレーラーハウスを置き、東京との2拠点生活をしている大田さん。
暮らす場が増えると、自然とものも増えそうですが、どちらの場所でも使えるよう、持ち運びできるセットをつくっておくといった工夫で乗りきっています。
身軽な暮らしぶりが印象的ですが、以前はまったく違う生活をしていました。
「ファッションのスタイリストとして忙しくしていたこともあり、ものもたくさんため込んでいました。いま思うと、当時は外からの情報や流行に流されていることが多くて、自分の内面とあまり向き合っていなかった気がします」
転機となったのは、2011年から約10年間携わった飲食店の経営。食材の調達などのために各地の農家の人々とつきあううち、長い時間軸のなかでじっくり自然と向き合う彼らの姿に大きな影響を受けたといいます。
「私自身も、ものより自然や心にもっと時間を割きたい、だからものは少しあればそれで十分だと思うようになったんです」
多くのものに囲まれていた時期を経て、いまは「自分が心から好きだと思えて、じっくり向き合えるもの」だけを置くように。
奥にしまい込んで眠らせているものはひとつもなく、「わが家にあるものはすべてが輝いているスター選手たち」といいきります。
「私にとって整理整頓とは、すべてのものが生き生きと活躍できる状態をつくること。そうした心地よい空間が、自分自身の気持ちや暮らしをつくっていく気がします」
大田さんの「片づけの工夫」
季節のアクセサリーはトレーにのせて
ブレスレットやサングラスなど、季節ごとに着けるアクセサリーだけをトレーにのせて、寝室のチェストの上に。「外に出しておくと、身支度をさっとすませられます」
〈撮影/星 亘 取材・文/嶌 陽子〉
大田由香梨(おおた・ゆかり)
ファッションスタイリストとして活躍した後、ファッションの枠を超え、「衣・食・住」のトータルコーディネートを行う“ライフスタイリスト”という新しいジャンルを確立。クリエイティブな活動を通して、持続可能ですこやかなライフスタイルを広めている。
インスタグラム:@otayukari
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです