• 読んで背筋が伸びた1冊、いままでにない感情があふれ出た1本。表紙を閉じたとき、映画館を後にしたとき、ほんの少しだけ、世界が変わってみえました。今回は、「誠光社」店主の堀部篤史さんに「価値観を変えた本と映画」を伺いました。
    (『天然生活』2022年11月掲載)

    「わからないこと」に向き合う

    「映画や本程度では価値観は変わらないけれど......」と堀部さん。

    「たとえば『ザ・マスター』にはわかりやすい構図も結論もありません。ただ、だれもが明快に納得するものや効果を求めるなら、それは自己啓発本と同じで、いうならば“サプリ”でしかない。でも本や映画って、それとは真逆の存在。理解できないし効果も不明だけれど、そこで自分の理解の範囲まで引き下げて安易に結論づけず、『なぜ?』と知的鍛錬を重ねること。それが、本や映画との出合いの面白さ。価値観が変わりうる可能性があるとすれば、そこなのでは」

    下流志向
    学ばない子どもたち 働かない若者たち

    画像: 内田 樹著/講談社文庫

    内田 樹著/講談社文庫

    働かない、学ばないことを誇りに思う=下流志向に陥った日本人。

    「30歳頃に初めて触れた内田氏の著書で、大きな影響を受けました。個人の主観を物事の原因としない、構造主義の考え方による価値観の逆転を味わいました」

    ストリートワイズ

    画像: 坪内祐三著/晶文社

    坪内祐三著/晶文社

    街をひとつの大きな学習の場として歩き、獲得した知恵や知識。

    「坪内氏の物書きとしてのステートメントともいえる1冊。本書収録の『オウム世代の神様探し』というテキストには強く感銘を受け、何度も読み返しました」

    ザ・マスター

    画像: 2012年 アメリカ 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 東宝 ©MMXII by Western Film Company LLC

    2012年 アメリカ 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 東宝
    ©MMXII by Western Film Company LLC

    宗教団体教祖とその弟子になった帰還兵との関係を描く。

    「主人公は戦争によるPTSDを負っているが、その傷つき方は決してステレオタイプではないし、結末もすっきりするものではない。それでも胸を打つものがあるんです」



    <取材・文/福山雅美>

    画像: ザ・マスター

    堀部篤史(ほりべ・あつし)
    学生時代に恵文社一乗寺店でアルバイトを始める。2015年まで店長を務めたのち独立。店舗運営のほか、イベント企画、執筆活動等を行う。https://www.seikosha-books.com/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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