(『天然生活』2022年11月掲載)
「わからないこと」に向き合う
「映画や本程度では価値観は変わらないけれど......」と堀部さん。
「たとえば『ザ・マスター』にはわかりやすい構図も結論もありません。ただ、だれもが明快に納得するものや効果を求めるなら、それは自己啓発本と同じで、いうならば“サプリ”でしかない。でも本や映画って、それとは真逆の存在。理解できないし効果も不明だけれど、そこで自分の理解の範囲まで引き下げて安易に結論づけず、『なぜ?』と知的鍛錬を重ねること。それが、本や映画との出合いの面白さ。価値観が変わりうる可能性があるとすれば、そこなのでは」
下流志向
学ばない子どもたち 働かない若者たち
働かない、学ばないことを誇りに思う=下流志向に陥った日本人。
「30歳頃に初めて触れた内田氏の著書で、大きな影響を受けました。個人の主観を物事の原因としない、構造主義の考え方による価値観の逆転を味わいました」
ストリートワイズ
街をひとつの大きな学習の場として歩き、獲得した知恵や知識。
「坪内氏の物書きとしてのステートメントともいえる1冊。本書収録の『オウム世代の神様探し』というテキストには強く感銘を受け、何度も読み返しました」
ザ・マスター
宗教団体教祖とその弟子になった帰還兵との関係を描く。
「主人公は戦争によるPTSDを負っているが、その傷つき方は決してステレオタイプではないし、結末もすっきりするものではない。それでも胸を打つものがあるんです」
<取材・文/福山雅美>
堀部篤史(ほりべ・あつし)
学生時代に恵文社一乗寺店でアルバイトを始める。2015年まで店長を務めたのち独立。店舗運営のほか、イベント企画、執筆活動等を行う。https://www.seikosha-books.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです