55歳でベッドを手放そうと決めて
布団生活をはじめて、もうすぐ1年になります。こどもの頃からベッドで寝ていたこともあり「ベッドは必需品」と思っていました。でも、いまは「布団いいですよ」と、事あるごとにお勧めしています。
所謂ベッドというものを手放したのは、55歳になる少し前のことでした。いまから5年前ですね。
一番の理由は「処分する時に大変そう」だからです。当時は、一軒家のひとり暮らし。手放す時は、家の前まで運んでいかなければ行政は回収してくれません。「いまはまだいいけれど、先々、運んでいけなくなりそう」。そう考えた時、はじめて、ベッド以外で眠ることを検討しました。
と、言っても、体の慣れや、習慣などで、ベッド程の高さがあるもののほうが「使いやすい」のは確かです。ある程度、高さがあれば、寒い季節の床からの冷気やフローリングのホコリも防げます。そこで考えたのが、寝台。布団が敷けるサイズの台を造ってもらい、その上に布団を敷いて眠るという方法でした。
小さな住まいに引っ越してみると不具合が
これは、なかなかよかったです。ベッドマットレスのように敷いたままにしなくてもよく、床からの冷気、ホコリも気になりません。腰かけやすい高さもあります。布団を畳んでしまえば生活感もありません。自分でも「いいアイデア」と思っていました。
でも、それは、広い家だったから。スペース的には、ベッドと変わらないですからね。東京に住まいを戻し、空間が1/3になったことは何度か書いています。その広さでベッドサイズの寝台を置くのは、少しムリがありました。そう気づいたのは、暮らしはじめて1年ほど経った時。それで決めました。「布団生活をしてみよう」。
マンションなので、一軒家のように床からの冷気もほとんどありません。ホコリは、寝る前にさっと床を掃除すればいいだけです。そう考えれば、布団は、都市生活に向いています。
布団が都市生活に向いていると思う理由
広さに制限がある東京の住まいです。「ここはこう」と空間の役割を決めて暮らすより、部屋を自由に使う方がいい場合もあります。かつてのわたしたちの暮らしは布団を使用していました。それを、現在に合わせたスタイルにすればいいのです。
布団生活のデメリットを挙げるとしたら──。
1.布団の上げ下げに手間がかかる。
2.寝たい時にすぐ寝られない。
3.ベッドのように腰かけたりできない。
でしょうか。2と3は、確かにそうです。でも、1に関しては、収納方法を考えれば問題ありません。いまの布団は、軽いので大丈夫。
よかったこととしては、昼寝をしなくなった点です。家で仕事をしているので、ついつい「寝てしまう」ことがありました。わたしは一度眠ると長いのです。目が覚めると夕方過ぎということがよくありました。いまは、よほど眠い時でなければ、日中、横になることはありません。
布団生活を開始して、この夏、気づいたのは、体の自由さです。
東京の夏は、夜でも驚くほど暑い日があります。寝苦しい時は、睡眠時、体が知らないうちに動きまわります。気づくと、変な体勢で寝ていることも度々。でも、布団なので、どんな寝相でも、寝返りでも、自由。当たり前ですが、落ちることもありません。こんな風に寝られるのは久しぶりのこと。眠りが深くなりました。
ベッドを使っていた時は、無意識に「落ちないように」となっていたのかもしれません。そのスペースで眠ることを体は学習しているはずです。その括りがなくなる気持ちよさ。「布団っていい」と改めて思いました。何事もやってみないとわからないものですね。
歳を重ねていくと、体の上下運動がきつくなるため、再び、ベッドを使用するようになるかもしれません。住まいが変われば、考えも変化します。それはその時の自分に合わせればいいのです。
いまは限られたスペースを広く使えること。布団の上げ下げで気持ちの切り替えができること。洗える布団にしたので清潔でいられること。それらが気に入っています。
布団生活、いかがですか?
60歳のメモ
1 寝具をはじめ睡眠環境を見直してみる
2 睡眠に関して優先順位を再考する
3 寝具、就寝時の環境、パジャマ等をいまに合うものにしてみる
4 就寝中、落下・転倒する可能性のあるもの等は片づける
5 考えすぎを手放すなど眠りやすい習慣をつくる
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19