• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。60歳を前に、歳を重ねるなかで出てくるさまざまな課題や考えなくてはいけないこと。たとえば住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。ひとつひとつにしっかり向き合い、「心地いい」と感じる方へ舵を取る広瀬さんの毎日。そこから、60歳までにこうなりたい、という目標と取り組みを同世代や下の世代の方とシェアしていけたらと思っています。小さな住まいの寝具について。

    55歳でベッドを手放そうと決めて

    布団生活をはじめて、もうすぐ1年になります。こどもの頃からベッドで寝ていたこともあり「ベッドは必需品」と思っていました。でも、いまは「布団いいですよ」と、事あるごとにお勧めしています。

    所謂ベッドというものを手放したのは、55歳になる少し前のことでした。いまから5年前ですね。

    一番の理由は「処分する時に大変そう」だからです。当時は、一軒家のひとり暮らし。手放す時は、家の前まで運んでいかなければ行政は回収してくれません。「いまはまだいいけれど、先々、運んでいけなくなりそう」。そう考えた時、はじめて、ベッド以外で眠ることを検討しました。

    と、言っても、体の慣れや、習慣などで、ベッド程の高さがあるもののほうが「使いやすい」のは確かです。ある程度、高さがあれば、寒い季節の床からの冷気やフローリングのホコリも防げます。そこで考えたのが、寝台。布団が敷けるサイズの台を造ってもらい、その上に布団を敷いて眠るという方法でした。

    小さな住まいに引っ越してみると不具合が

    これは、なかなかよかったです。ベッドマットレスのように敷いたままにしなくてもよく、床からの冷気、ホコリも気になりません。腰かけやすい高さもあります。布団を畳んでしまえば生活感もありません。自分でも「いいアイデア」と思っていました。

    でも、それは、広い家だったから。スペース的には、ベッドと変わらないですからね。東京に住まいを戻し、空間が1/3になったことは何度か書いています。その広さでベッドサイズの寝台を置くのは、少しムリがありました。そう気づいたのは、暮らしはじめて1年ほど経った時。それで決めました。「布団生活をしてみよう」

    マンションなので、一軒家のように床からの冷気もほとんどありません。ホコリは、寝る前にさっと床を掃除すればいいだけです。そう考えれば、布団は、都市生活に向いています。

    画像: 暖かい季節は掛け布団1枚。冬はプラス1枚。収納はクローゼットに

    暖かい季節は掛け布団1枚。冬はプラス1枚。収納はクローゼットに

    布団が都市生活に向いていると思う理由

    広さに制限がある東京の住まいです。「ここはこう」と空間の役割を決めて暮らすより、部屋を自由に使う方がいい場合もあります。かつてのわたしたちの暮らしは布団を使用していました。それを、現在に合わせたスタイルにすればいいのです。

    布団生活のデメリットを挙げるとしたら──。

    1.布団の上げ下げに手間がかかる。

    2.寝たい時にすぐ寝られない。

    3.ベッドのように腰かけたりできない。

    でしょうか。2と3は、確かにそうです。でも、1に関しては、収納方法を考えれば問題ありません。いまの布団は、軽いので大丈夫。

    よかったこととしては、昼寝をしなくなった点です。家で仕事をしているので、ついつい「寝てしまう」ことがありました。わたしは一度眠ると長いのです。目が覚めると夕方過ぎということがよくありました。いまは、よほど眠い時でなければ、日中、横になることはありません。

    布団生活を開始して、この夏、気づいたのは、体の自由さです。

    東京の夏は、夜でも驚くほど暑い日があります。寝苦しい時は、睡眠時、体が知らないうちに動きまわります。気づくと、変な体勢で寝ていることも度々。でも、布団なので、どんな寝相でも、寝返りでも、自由。当たり前ですが、落ちることもありません。こんな風に寝られるのは久しぶりのこと。眠りが深くなりました。

    画像: 高さのある物の乗り降りが苦手になった12歳の高齢期ねこも布団なら移動しやすい

    高さのある物の乗り降りが苦手になった12歳の高齢期ねこも布団なら移動しやすい

    画像: 電球を替えるだけでリモコン操作ができるスマート電球。横になったまま照明のオンオフが可能になりとても便利。スマート電球は、リモコンのデザインで選んだ「フィリップス」製

    電球を替えるだけでリモコン操作ができるスマート電球。横になったまま照明のオンオフが可能になりとても便利。スマート電球は、リモコンのデザインで選んだ「フィリップス」製

    ベッドを使っていた時は、無意識に「落ちないように」となっていたのかもしれません。そのスペースで眠ることを体は学習しているはずです。その括りがなくなる気持ちよさ。「布団っていい」と改めて思いました。何事もやってみないとわからないものですね。

    歳を重ねていくと、体の上下運動がきつくなるため、再び、ベッドを使用するようになるかもしれません。住まいが変われば、考えも変化します。それはその時の自分に合わせればいいのです。

    いまは限られたスペースを広く使えること。布団の上げ下げで気持ちの切り替えができること。洗える布団にしたので清潔でいられること。それらが気に入っています。

    布団生活、いかがですか?

    60歳のメモ

    1 寝具をはじめ睡眠環境を見直してみる

    2 睡眠に関して優先順位を再考する

    3 寝具、就寝時の環境、パジャマ等をいまに合うものにしてみる

    4 就寝中、落下・転倒する可能性のあるもの等は片づける

    5 考えすぎを手放すなど眠りやすい習慣をつくる


    画像: 布団が都市生活に向いていると思う理由

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)

    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19



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