(『天然生活』2021年12月号掲載)
この家の“管理人”として、少しの緊張感とともに
「熊谷で暮らそう」。家族にそう提案したのは、山本さんでした。そこから引っ越しまでは、約半年。
思いがけない急展開のスタートを、「それもいいかな、って思ったの」と、いとも軽やかに振り返ります。しかし、一昨年に義母が他界し、その後義父も施設へ入ることになり、明かりのともらなくなった家のことが、やはりどこかで気にかかっていたのでしょう。
ある日、テレビに映ったドイツ人の建築家、カール・ベンクス氏が手がける再生古民家と、熊谷の実家、そしてこれからの暮らし方とがぴたりと重なったというわけです。
改装の際、家の個性や歴史ある部分を守ったように、この家に残されてきたものをよみがえらせ、つないでいくのもまた、ひとつの役目だと感じていた山本さん。
「義母の立派な嫁入り道具や、ずっと前の代から受け継いだものもあります。夫の先祖代々の家ですから、ここを任せてもらった管理人さんのような気持ちかな。もちろん、移ってきたのは自分たちの意思ですし、うちであることに変わりはありません。でも、この年齢になり、いまいる場所の空気感を受け取りながら、物が増えないように気をつけたり、ほんの少し緊張感をもって暮らしたりすることは、きっとどこに住んでいても必要だと思うんです」
広さとは裏腹に、昔ながらの家は収納がとても少なく、山本さんも、荷物のすべてを見直して引っ越してきました。
「必要に迫られて持ち物を減らしましたが、見直す、という機会をもつことは大事ですね。ちょっと立ち止まって考えて、手放して。そうしたら、新しい風も入るように思います」
歳を重ねても大切にしているもの・こと
手元に置いて、いまこそ読み返したい児童書
大人になって読み返す児童書は、記憶にある世界とは違う視点で読めると気づき夢中に。
おすすめとして選んでくれたのは、詩人の茨木のり子が訳を手がける韓国の童話集『うかれがらす』(筑摩書房)と、石井桃子による新訳『百まいのドレス』(岩波書店)
目に触れる場所には、じっくり選んだものを
コンポスト生活を機に、生ゴミの一時置き場としてホウロウのキャニスターが仲間入り。
「生ゴミ用だからと間に合わせで選ばず、家具や家電と同じように、納得できるいいものを。毎日目にするものや使いつづけるものは、きちんと選ぶようにしています」
<撮影/有賀 傑 取材・文/藤沢あかり>
山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
暮らしの機微をつぶさに、「面白がり」ながら、独自の視点で照らす随筆家。「ふみ虫舎通信エッセイ講座」主宰。著書に『家のしごと』(ミシマ社)など。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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第1章 これからの「おいしい生活」のつくり方
料理家・大庭英子さんには、いまの自分にちょうどいい、レシピ6品と台所仕事の工夫を、スタイリストのchizuさんには、気負わず楽しむ、テーブルコーディネートのコツを教えていただきました。
第2章 おしゃれは心のビタミン!
中野翠さんのエッセイと、ぬ衣さん、山下りかさんの春夏秋冬のコーディネートを紹介します。
第3章 豊かな人生のための幸せの支度
山本ふみこさん、ユキ・パリスさん、中島デコさん、松場登美さん、横尾光子さん、坂井より子さんの暮らしの流儀を紹介します。
第4章 心身とお金を整えるために
家で簡単にできる体操や、節約のこと。
第5章 人生の豊かな「しまい方」
石黒智子さんがはじめた終活と、井上由季子さんが経験した家族の介護について、お話を伺いました。