改めて振り返る、黒猫「あい」のこと
今日、12月14日は、私が猫についての文章を書くきっかけになった黒猫「あい」と出会った記念日です。
当時、私はかなり重い心の病に抱えていて、保護した猫あいも、猫エイズと白血病……というお先真っ暗な状態でした。
今でこそ、心の病も昔より認知され、オープンにする人も増えてきましたが、その頃は「人に隠すべき恥ずかしいもの」という認識が、まだ世間にはあった気がします。
同時に、あいが抱える、猫エイズや白血病も、動物病院ですら「安楽死」をすすめられるほどの「どうしようもないもの」でした。
そんな私とあい。
あいは、もう亡くなってしまいましたが、眠ったあいの魂も含めて、今、私がしあわせな気持ちで生きているのは、ふたりが「病気だったから」と胸を張って言えます。
心の病気を抱えて、無職の私に生きる気力を与えてくれた
私は病気もあり、あいと出会った当時、仕事をしていませんでした。わずかな貯金を切り崩し、パートナーに支えてもらう日々。
ですが、あいとの出会いで「自分も働いて、この子を食べさせていかなければならない!」と強く思ったのです。
それからの行動は人が変わったようでした。
近所のスーパーに行くにも、パーカーのフードを目深にかぶり、震えながら過ごしていた私が、「あいの世話を家でしたい」という理由だけで、フリーランスのWEBデザイナーを目指すようになり、何の資格も経験もないのに、「下請けにならせてください!」と営業にまわったのです。
入門書を片手にポートフォリオを毎日作り、応募し、やがて「営業も打ち合わせもデザインも金銭のやりとりも全て自分で」という会社に採用され、その一年後には独立しました。
そのめまぐるしく移り変わるストレスフルの時代を、あいはそばでいつも見守ってくれました。
あいという「頑張る理由」がそばにいなければ、私はへこたれていたと思います。
「心の病気」
「猫の病気」
どちらも、悲しいことだと受け止められがちです。
ですが、本当にそうなのでしょうか?
私は、心の病気がなければ、繁華街の片隅で消えそうな声をあげる小さな命に気づくことはなかったかもしれません。あいが病気でなければ、こんなにも「なんとかしなければ」と自分を変えようと勇気を出せなかったかもしれません。
病気があったからこそ、私たちは、何が何でも光を手に入れようとあがけたのだと思います。
頑張る自分を抱きしめて
今、世の中は不景気で、苦しい生活をしておられる方も少なくないと思います。
その中には、病気や金銭苦、はたまた対人関係のお悩みを抱えておられる人も多いのではないでしょうか。
それは、とてもつらいこと。同時に、その苦しみの中で、なんとか足を踏ん張っているご自身を抱きしめてあげてほしいと強く願います。
私たちは、「マイナス」を糧に生きていけます。
そして、それを「プラス」に変える力を、誰もが持っていると信じています。
咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」