(『天然生活』2023年12月掲載)
自然と生まれる暮らしの循環
NPO法人「まちの食農教育」理事の森山円香さんが暮らすのは、徳島県神山町。山間の小さな町ながら、IT企業のサテライトオフィスやお店が次々と生まれ、魅力的な場所が人を呼び、移住を促進。いい循環が生まれています。
「地元の人が始めたアーティスト・イン・レジデンスがきっかけでこの町を訪れ、自然や人に魅せられて移住した人は多いですね。町をあげていち早くネット環境を整えたことも移住やサテライトオフィス開設の後押しになりました。デザイナーやアーティストといった個人で活動する移住者が多いのもこの町の魅力です」
森山さんも移住してきたひとり。町の地方創生に関わった縁で東京から移住。農業高校の立て直しに携わりました。カリキュラムとして始めた石積みのワークショップは町を守ることにつながっています。
「山間にある集落なので、棚田や段々畑、民家の土台も石積み。昔は地域の人がつくり、直していたのですが技術をもつ人が少なくなっていたので、崩れたとき、高校生が直せたらいいんじゃないかなと思って」
安易にセメントで固めてしまうと、壊れたときに大きな被害になりかねない。石積みは水を通し、すき間は生き物の住処にもなる。人の手で直せる、里山の知恵です。
「つくったものを交換したり、学んだことを教え合ったり。循環という言葉を生活のなかで使うことはないですけど、ここでの暮らしは自然とそうなっている気がします」
地域の仲間と助け合って次世代へ暮らしをつなぐ
人と人とのつながりこそ、神山町の魅力。知恵や工夫を分かち合い、次へつなぎます。
石積みを学んで自分たちで直せるように
「石積みは1ぐり、2石、3に積み」と石積みを教える、金子玲大さん。ぐり石とは、石積みの裏側に積み上げる小さな石。
「土留めになる一番大事なもの。次に石の形や硬さ、最後に積み方。仕組みがわかっていれば簡単に直せて、環境にもいいんです」
農業高校のみならず、石積みを直す際、一般向けのワークショップを行うことも。宿泊施設「WEEK」ではだれでも使える石置き場を設置し、地域の助けに。
体験を通して実感未来へつなぐ食農教育
森山さんが理事を務めるNPO法人「まちの食農教育」は地域の人とつながり、子どもたちが米づくりや畑仕事を体験し、食について考える場をつくっています。
今年開校したデザインやテクノロジー、起業家精神を学ぶ、「神山まるごと高専」では、部活で農業体験。
「刈り取った稲を束ねるのも、やってみればひと苦労。実際に体験することで、これからの農業の助けになるアイデアや技術開発につながれば」
<撮影/辻本しんこ 取材・文/宮下亜紀>
森山円香(もりやま・まどか)
1988年、岡山県生まれ。地域開発コンサルティングファームに勤め、徳島県神山町の地方創生に携わり、2016年に移住。農業高校のカリキュラム開発や学科再編に取り組み、その経験を基にした著書『まちの風景をつくる学校 神山の小さな高校で試したこと』(晶文社)も。https://note.com/gachapiyoyoyon2/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです