(『天然生活』2023年12月掲載)
半径2km内で循環する豊かな暮らし
ローカルフードサイクリング代表のたいら由以子さんがこの循環生活に目覚めたのは、いまから28年前。いまでいうところの持続可能とか、サステナブルとかいう言葉がまだ世に出回っていない時代です。
きっかけは父親の闘病時に始めた、玄米菜食の養生食づくりだったそう。当時、安心安全の無農薬野菜を手に入れるのは至難の業でした。
「なぜ安心して食べられるものが簡単に買えないのだろう。父の命をつなぐために必死だった私は、その現実に憤りました。食べ物は大切な人の命を左右するというのに......」と当時を振り返ります。
その解決のヒントは、意外にも自宅の庭にありました。母親が50年以上も前から生ごみを埋めてつくっていた堆肥づくり。熟考の末、これしかないと悟ったたいらさんは、母を説得してコンポストの普及活動をスタートします。
「忙しい人が自分事として取り組めるのには半径2km。この小さな単位内にある循環こそが大事」という世界観を掲げ、周囲を巻き込み今日まで走ってきたたいらさん。
「自分たちが出しているごみなのに、袋に入れて置いておけば清掃員さんが持っていってくれます。その時点では他人事になってしまいますが、生ごみを循環させることで自分事になり、自然、栄養、虫、微生物のことなどさまざまな気づきを与えてくれます。さらに、コンポストの堆肥を入れた土で育った野菜のおいしさといったら格別です。ぜひ多くの方に、日々の暮らしからできる、この栄養循環を体感してもらいたいですね」
地域の仲間と助け合って循環する楽しみ
コンポストの普及と、栄養循環をサポートするコミュニティガーデン。
LFC三笘コミュニティガーデン
福岡市東区の三笘や美和台校区を対象に、コンポストの普及と栄養循環をサポートする、コミュニティガーデン。
敷地内には、年間200種類の野菜を育てている畑のほか、ニホンミツバチの巣箱や、堆肥をつくる木枠コンポストがいくつも設置されていました。
こちらではコンポスト講座や半農都会人の農業コースなどを実施。なかでも子どもたちも参加した、さつまいもの収穫体験は好評だったそうです。
コンポストの回収
地域の人たちがせっかくLFCコンポストで堆肥をつくっても、時間や場所がなく使い道がない場合は、コンポストを回収して近郊の連携農家さんに使ってもらいます。
随時開催されている回収&相談会では、コンポストの回収以外にも、LFC公認アドバイザーにコンポストの悩みを相談できます。
場所によっては、生ごみ堆肥でできた野菜や加工品の販売なども実施。
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<撮影/繁延あづさ 取材・文/名原和見>
たいら由以子(たいら・ゆいこ)
ローカルフードサイクリング代表取締役。 安心安全な食のために、土の改善と暮らしを循環させるLFCコンポストを考案。「半径2キロメートルの栄養循環」をめざして、1997年から活動をスタート。2004年に特定非営利活動法人 循環生活研究所、2019年にローカルフードサイクリング株式会社を設立。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです