(『天然生活』2023年12月掲載)
ものの行き先のことまで考えて暮らす
「まだ使えるものを、ただごみに出して終わりには、したくないんです」
築約90年の古民家でフェアトレードやオーガニックなものを扱う店「わっか屋」を営む角麻衣子さんは、夫・俊弥さんとともに、あらゆるものに魂が宿るとするアイヌの文化を大切に考えています。
俊弥さんは、木工作家。地元木材を活用し、漆を塗ってほかにないフォルムの器をつくります。
麻衣子さんは、「ものがどこから来てどこへ行くのか」を意識して暮らしたい、といいます。自然にやさしい循環を意識するようになったのは、大学卒業後に、自然食品店で有機野菜を購入したことがきっかけでした。
そのおいしさに体の細胞から喜んでいるのを感じ、野菜を育んだ太陽や水、土、つくり手への感謝の気持ちがあふれたそう。
台所は、水や食べものを通して地球とのつながりを感じられる場所。ささやかだけれど、「おいしいね。心地いいね」と感じられることを日々コツコツ積み重ね、周りにも伝えていきたいと考えています。
体のめぐりをよくするために、ヨガやフラダンスをしています。古典フラの先生から「汗をかくことは、人が地球の水の循環に寄与できること」といわれハッとしたそう。
環境への思いは、暮らしを通して、より深まっていきます。
01_循環する暮らし
ウエスを使って油を流さない
油がもたらす海や川の生態系への影響を考えて、鍋や食器の油汚れは必ずウエスでふき取ります。
着古した服などをウエスにしていつでも使えるようかごにストック。掃除は重曹やクエン酸など自然環境にやさしいものを使います。
家電でも何でも、ものがその寿命を全うするまで使い切るようにしています。
02_循環する暮らし
継ぎはぎや染め直しをして使いつづける
かつて、日本の農村で着物や布を継ぎはぎして使いつづけた「襤褸(ぼろ)」は、近年、海外の美術館にも展示されるなどその美しさが注目されています。
ほつれたら修繕して大切に使った店のカーテンや、長年愛用したのちに、藍染めをして再生したワンピースは、やさしく、味わい深く、「襤褸」に通じる美しさを醸しています。
03_循環する暮らし
あるものを生かして食べる工夫
毎年、祖父母の山にあるお茶の木の茶摘みをし、紅茶をつくり、自家製紅茶から紅茶キノコ(コンブチャ)も育てています。
畑では、草刈りをしながら、お茶にする野草を大切に採取することも忘れません。
「ゲンノショウコはおなかの薬に。カキドオシやキンギンカなども、家族の体のために保存しています。野草は元気をくれます」
地域のものを生かして循環させる工夫
近くの仲間と自然の恵みや知恵を分かち合えば、暮らしはより豊かに、味わい深くなります。
何十年も生きた木を再び生かして使い切る
地域で伐採された広葉樹の木材は、ほとんどが使われず、腐らせているのが現状。
そんななか、俊弥さんは、友人や知人から託された木材を、木に関わった人や歴史に思いを馳せながら斧で切り、豆鉋で削ります。
再び命を吹きこまれた木は、長く使いつづけられる器となって未来へつながります。
できるだけ近くの農家から野菜を購入
自然農や有機農業を営む地元の農家から、毎週新鮮な野菜を仕入れています。
余った果物をわけてもらったら、ジャムなどの保存食をつくり、食卓の楽しみにすることも。
食料自給率や環境のこと、種を守ること、未来に思いをはせて、応援したいところに、お金を回すことを心がけています。
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<撮影/ヨシガカズマ 取材・文/石田洋子>
角 麻衣子(かく・まいこ)
大学時代にNGO研究のゼミでアフリカ文化に親しみ、卒業後はフェアトレードの店の運営に携わる。2008年、山口市で「わっか屋」をオープン。店名は輪のようなつながりへの思いとアイヌ語で水を意味する言葉から。自然栽培の野菜、オーガニック食品や雑貨、友人たちの手仕事の品、夫・俊弥さん作の器やカトラリーも販売。インスタグラム@waccamai
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです