(『天然生活』2023年1月号掲載)
気負わずつくれる、タカ子さんの“ゆるやか”なおせち
大掃除も正月飾りの準備もすっかり終わり、いよいよ暮れも押し迫った12月30日。
横山家の台所では毎年恒例、正月料理の準備が始まります。けれどそれは、あくまでも気負わず、ゆるやかに。
「子どもが小さかったころは、親族やお客さまが大勢集まり、おせちにも手がかかったもの。そんなあわただしさがなくなった近頃は、準備も気軽にのんびりとお正月を迎えることが多いですね」
まずは日持ちする田作りや、なますの仕込みを開始。
黒豆を水にひたしたら「あとはほとんど31日に。感覚的には日頃の食事の支度と変わりませんよ」と横山さん。
「おせちの基本といえば、黒豆、たたきごぼう、田作りの『祝い肴(さかな)三種』。そこにお雑煮を並べられたら、もう立派なお正月です。加えて私は、一の重にはお酒にも合うオードブル類を、二の重には焼きものとして信州のお正月に欠かせないぶりやさけなどを。三の重にはお煮しめをたっぷり詰めておきます」
おせちのルールは押さえながらも、つくり慣れたもの、食べたいものを、が横山さん流。
「昔のように、1週間同じものを食べつづけることはほとんどありませんから、味つけも強すぎず、適塩で。食べ慣れた味のほうが箸も進み、最後までおいしくいただけると思います」と話します。
「行事のならわしに厳しかった母からは、『お招きした年神様を追い出さないように、お正月の掃き掃除はご法度』と教わりました。一月二日は『仕事始め』として、ひと針でもふた針でも針仕事を。そんなふうに、いつもとは少し時間の流れが変わる日々のなか、お重を並べるだけでパッと華やぐおせち料理は、やっぱり理にかなった風習だと感じます」
一年の始めを清々しく、ゆったりとした気持ちで迎えるための、正月料理。
まずは「おいしそう」と心動く一品から、始めてみませんか。
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〈料理・スタイリング/横山タカ子 撮影/山浦剛典 取材・文/玉木美企子〉
横山タカ子(よこやま・たかこ)
料理研究家。長野県大町市生まれ、長野市在住。長年、保存食を中心とした信州の食文化を研究すべく、各地に赴き取材を重ねる。食材の持ち味を生かした「適塩」の料理や保存食レシピが好評。近著に『横山タカ子さんの和のある暮らし』(扶桑社)。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです