(『天然生活』2024年2月号掲載)
みんなが混ざって、ただそこにいるのがいい
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
「チームむかご」としては、生活者と生産者の距離を近づけるための農業支援やフードロス削減活動、発生から12年となった東日本大震災の被災地への支援をしてきました。
連載を始めたことから関わりが生まれた、ホームレスの人々のサポートを軸とするNPO法人「ビッグイシュー基金」では、いまや共同代表という立場に。
社会の問題を目のあたりにした私たちが、「人の助けになりたい」と思うとき、そこにはいつもまっさきに現場にいる、料理家・枝元なほみさんの姿があるように思います。
ただそれだけに、枝元さんの前では、“つながる”だとか“支える”だとか、そんな耳触りのいい言葉を使うのは、どうも違う気がしてなりません。
「言葉やいいまわしが、そんなに重要な気はしないけれど、たしかに私は、とくにだれかを“支えよう”って思ったことはないかもしれません。なんだか、“支える”って言った瞬間に、すごく線引きされちゃう感じが、しちゃうのかな。する側と、される側。どうしても、『支えるほうが強い』みたいになっちゃう気がして。強いのがいいのかな? なんでもできるほうが正しいのかな? って、つい反論したくなっちゃう。あまのじゃくなんだね、きっと」
それはさまざまな活動を続けるなかで、ずっと抱いてきた考え方。最近、より実感するようになった理由のひとつには、自身の体調もあります。
2023年の初めに持病である間質性肺炎をこじらせ、酸素吸入が必要な生活になりました。この夏には、吸入をしながらテレビ番組に出演。その際、視聴者からの思いもよらない反響に驚いたといいます。
「同じように酸素吸入が必要な人たちから、『吸入した状態で人前に出てきてくれて、すごく励まされました』って声が多く届いたんです。正直、吸入する前よりもかなり疲れやすいし、息切れするし、“できること”自体は減ったわけだけれど。それとは関係なく、だれかの力になれたことがうれしいなあと思って。できることが少なくなっても、それに取り組む姿勢がだれかを元気づけたり、支えたりすることができる。できる、できない、持ってる、持ってない。そんな分け方って、もうあんまり意味がないのかもしれない、って思えたんですよ」
人と人。ただフラットに向き合ってみるだけ
「どこかに困っている人がいたら一緒の場に立ってともに考える、そんなふうにできたらいいな」
枝元さんはそんな気持ちで動いてきました。たとえば、関わっている「ビッグイシュー」は、ホームレスの人々の自立を目指していますが、いわゆる“チャリティー”ではありません。
質の高い雑誌をつくり、それをホームレスの人々による独占販売とすることで、働く場をつくり、自立を後押しする仕組みです。
「なんかいいなあ、と思ったのは、そのフラットなところなんですよ。何かを“してあげる”んじゃなくて、販売員の彼らと私たちとは、ビジネスパートナーで、お互いに平等。まあ、これがなかなかクセの強いパートナーが多いんだけど、それはそれで面白いんですよ。『ボランティアを始めてみたいけれど、どうしたらいいのかわからない』って思っちゃうこと、ありますよね。でも、それってまじめに考えすぎなのかもしれませんよね。一生懸命になってしまう分、『してあげなくちゃ』が強くなってしまうのかもしれない。でもね、そもそも彼らは、“弱くていたわるべき存在”ではないというか。自分ががんばって“してあげる”という気持ちじゃなくて、同じ立ち位置なんだと思えるほうがいいですよね。『自分にできることはなんだろうな』くらいでいいんだと思う。続けられるかな? とか、もっと活動に集中できる状態になったら......なんてタイミングを図っていたら、きっとずっとできなくなってしまうから」
「私なんてね、もう、ホーントになんにも考えないで、いろいろ始めちゃう。目の前にある橋が石橋かどうかもわからないのに、叩くこともせずに、わーっと渡っちゃうタイプ。渡り終わって、『どうしよう、ここはどこ?』って迷子になってることに気づくの。そんなことの繰り返しで、『そろそろ学ぼうよ〜』って毎回思うけど、ついつい走っちゃうんです」
<撮影/川村 隆 取材・文/福山雅美>
枝元なほみ(えだもと・なほみ)
劇団の役者兼ごはん係、無国籍料理店スタッフを経て、料理家に。つくりやすく、オリジナリティあふれるレシピで人気となり、雑誌、テレビ、書籍など多岐にわたって活躍。https://mukago.stores.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです