• 軽井沢の里山に抱かれて建つ「ほっちのロッヂ」は、名前のとおり山小屋のような佇まい。病院でも高齢者施設でもない、「診療所と大きな台所があるところ」とは? 診療室のすぐそばから聞こえてくるのは、ごはんをつくっている音。医療と暮らしが地続きになった、新しいケアのかたちがここにあります。
    (『天然生活』2022年11月号掲載)

    病院でも高齢者施設でもない、新しいケアのかたち

    受付も待合室もなし。診療室は、扉を開けてすぐ前の階段をのぼった2階の片隅。診療室の内窓からは、キッチンとちゃぶ台がある1階の空間がのぞけます。

    「診療室にいて、下の台所からお昼ごはんをつくっている音がしてくると、医療は生活の一部だと思い出す。すると“おなかがすいたから難しい話は明日にしようか”となるんです」

    そういって笑うのは「ほっちのロッヂ」共同代表のひとり藤岡聡子さん。もうひとりの代表で医師の紅谷浩之さんも「においもたまらないんだよね」とにこやかにこたえます。

    画像: 共同代表の紅谷浩之さんと藤岡聡子さん。「ほっちのロッヂ」開設のきっかけは「軽井沢風越学園」の存在。「みずからが興味あるものを見つけ出し、学ぶ姿勢をつくる」という信条に共感したふたりが出会い、学園の向かいにつくることに。現在、教育の現場と組み、クリエイティブなケアの現場を子どもたちに見せています

    共同代表の紅谷浩之さんと藤岡聡子さん。「ほっちのロッヂ」開設のきっかけは「軽井沢風越学園」の存在。「みずからが興味あるものを見つけ出し、学ぶ姿勢をつくる」という信条に共感したふたりが出会い、学園の向かいにつくることに。現在、教育の現場と組み、クリエイティブなケアの現場を子どもたちに見せています

    ふたりの会話からわかるとおり「ほっちのロッヂ」では診療所と台所は同列の扱い。

    なぜなら心身のケアも、ごはんを食べることも、さらには好きなことに打ち込むことも、すべてが暮らしと地続きにあるという思いからこの場所はつくられているからです。

    ごはんをつくるのは地域の方々。元は患者さんとして来訪した料理好きの女性がボランティアとして志願。

    働き手やデイサービス、病児保育で訪れる利用者のおなかを満たしています。

    「ほっちのロッヂ」は、当初、果樹園のイメージから始まったのだそう。

    「おなかが減るという欲求に対して、果物をもいでだれかに手渡す。そんなイメージでした」と振り返る藤岡さん。

    画像: 地域の方々が働き手や利用者のためにごはんをつくりに来てくれる台所。朝は、働き手が前日の出来事を報告する場所。「一杯のお茶とともに、その日あった出来事を聞くのが、私にとっての大切な時間です」というスタッフの澤智子さんは、本人の力を信じて行うケアに興味をもち、今年4月から働き始めました

    地域の方々が働き手や利用者のためにごはんをつくりに来てくれる台所。朝は、働き手が前日の出来事を報告する場所。「一杯のお茶とともに、その日あった出来事を聞くのが、私にとっての大切な時間です」というスタッフの澤智子さんは、本人の力を信じて行うケアに興味をもち、今年4月から働き始めました

    10年ほど前、24歳のとき、友人と一緒に住宅型有料老人ホームを立ち上げた経歴があります。

    小学6年のときに亡くなった父の死に向き合えなかった後悔から、子どもたちに老いや死を身近に感じてほしいと、施設内に学童保育やカフェをつくる構想をするも、自身の結婚や出産で運営から引退。

    「高齢者施設に高齢者しかいないのは不自然だといっても、当時はだれにも理解されませんでした」と振り返ります。

    2017年には、東京豊島区の商店街で「長崎二丁目家庭科室」を主宰。年齢や職業を超えて好きなことを教え合う場をつくりました。

    一方、紅谷さんは、福井市で在宅医療専門「オレンジホームケアクリニック」を開き、そこで出会った医療ケアが必要な子どもの活動拠点「オレンジキッズケアラボ」を2012年に開設。

    病院で守られているだけの彼らの生活に疑問を感じて、夏に屋外体験をする「軽井沢キッズケアラボ」を2015年に始めたことが軽井沢とのご縁の始まり。

    画像: 本棚にはケアや医療関係の本のほか、毎月、軽井沢図書館からセレクトしてきた本が置かれています

    本棚にはケアや医療関係の本のほか、毎月、軽井沢図書館からセレクトしてきた本が置かれています

    「病気になったら病院、年をとったら老人ホームという“縦割りの呪縛”に僕たち医者だけでなく、一般の人たちも陥ってしまっているなか、もっと暮らしを大切にしたいという思いがありました。在宅医療で家に行ったり、森の中で子どもたちに接したりしていると、人のエネルギーをすごい感じるんです。僕の前では患者でしかないけど、すごい趣味をもっていたり、得意なことがあったりと、それぞれの物語がある。そんな人たちに痛み止めの注射をすることしかできない医者という自分は、なんの役に立っているのか、そんなことを考えたこともあります」

    「ほっちのロッヂ」をつくるきっかけは、幼稚園から中学校までの一貫教育校「軽井沢風越学園」の存在。みずからが興味あるものを見つけ、学ぶ姿勢をつくるという信条に藤岡さん、紅谷さんが共感したから。

    画像: 訪れた人に「ほっちのロッヂ」内を案内

    訪れた人に「ほっちのロッヂ」内を案内

    「教育の現場と隣り合わせて、なにかやるのは面白そう」という思いで、学園の開設と同じく2020年4月、すぐ前の土地に「ほっちのロッヂ」を開設。

    「子どもも高齢者も、外国籍の人も、アーティストも、障害のある人もない人もやってきて、どんどん混ざっていく環境をつくりたいと思っています」

    画像: 病院でも高齢者施設でもない“新しいケア”のかたち。軽井沢の小さな診療所「ほっちのロッヂ」を訪ねて

    ほっちのロッヂ

    長野県軽井沢町発地1274-113
    https://hotch-l.com/



    <撮影/在本彌生 取材・文/岡田カーヤ>

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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