(『天然生活』2022年10月号掲載)
我慢比べにならないよう“快適さ”を大切に。服部麻子さんのエコな台所
暮らしにまつわる食を発信しながら、夫の雄一郎さんと環境に配慮した多様な取り組みをする服部麻子さん。
高知県の山のふもとに建てた新居は、いわゆる、普通の家とは違います。
「プラスチックや化学物質を極力使わず、環境負荷をなるべく抑えながら快適に暮らせる設計にしました。自分たちがいまできうるエコな選択を模索して詰め込みました」
台所まわりも同様です。太陽熱の給湯やコンポストなど、自然のエネルギーと循環が取り入れられています。そんななかで少し意外だったのは、業務用食器洗い機の存在。麻子さんはいいます。
「わが家は来客やイベントで洗いものが多くて。食洗機は、電気は使うけれど節水効果もあるそうですし、これは中古なのでエコ。洗いものに費やす時間とストレスがなくなることが私には重要でした。環境によいことでも我慢比べにならないように、トータルのバランスで導入を決めました」
「快適さと直結するエコが理想です」というのは、雄一郎さんです。
「エコを大きく捉えなくていいと思うんです。僕自身そうでしたが、何かひとつ始めると、単純に生活が楽しくなってくる。とくに有機物の循環はインパクトが大きかったですね。生ごみをたい肥にして野菜ができたら、世界の見え方がちょっと変わるんじゃないかな」
食まわりが家の真ん中。空間を開いて多目的に使う
そしてダイニングを家族だけの場にしなかったのは、夫婦共通の思いからです。
「各種のイベントや将来的にはカフェもできる開かれた場所にしたくて。それでカウンターとベンチを造作したんです」(麻子さん)
結果的にこれが大正解。3人の子どもたちはカウンターで勉強したり絵を描いたり、ベンチで寝転んだり。麻子さんたちはひと息ついて、ときには仕事もする。家族にとっての居心地や使い勝手も申し分のない空間になりました。
「空間の汎用性は家全体で意識した部分です。家は途方もない量の資源を使って建てるもの。コンパクトで多目的な空間はエコにもつながります」(雄一郎さん)
少し日が傾いたころ、末っ子朔(さく)くんが帰ってきました。おやつを平らげると、宿題をカウンターに広げたり台所にいっておやつをおかわりしたり大忙しです。やがて娘の翠(すい)ちゃんも帰宅して、ベンチに座って雄一郎さんに学校の話を始めました。
「こうしてみんながダイニングに集まり、思い思いに過ごす姿を台所から眺めるのが好きなんです」
そういって麻子さんは笑いました。
〈撮影/飯貝拓司 取材・文/熊坂麻美〉
服部麻子(はっとり・あさこ)
神奈川県生まれ。カリフォルニア・バークレー、南インド、京都を経て、2014年に高知に移住。初めての家づくりの奮闘を記録した夫婦共著の『サステイナブルに家を建てる』(アノニマ・スタジオ)が発売中。ブログ「食手帖 高知の山のふもとより」
インスタグラム:@asterope_tea