(『天然生活』2020年3月号掲載)
ささやかながら確実な日々の暮らしの重し
穴があいてはふさぐ、その繰り返し。小さなカーディガンは、もうどれほど繕われたことでしょう。
針を刺すたびに表情を変えながら、姉弟で愛用しつづけてきた1枚。
「ダーニングで汚れを隠し、穴をふさぎながら、ずっと着せていますね。子どもはとにかくよく動くから、ひじ当ても付けて補強して」
安価に服を買える現代だからこそ、あえて1枚の服を手当てしながら着つづけたい。
どんな服でもつくるには大変な手間がかかると知っているから、そこをおろそかにはしたくないのです。
「特別な1枚だから、手をかけるのではないんです。手をかけた1枚だから、愛情がわく。繕いは、物に対しての、そしてそれを身に着ける人に対しての愛情の痕跡なのかもしれません」
ふたりの子どもを育てながらの毎日は、あわただしく過ぎていきます。
「時間がない」と気ぜわしくなることもしばしばです。そんななかでも繕いつづけるのは、それが日々の重しとなるから。
「忙しいと、“いま、ここにあること”に集中するのが難しくなります。だからこそ、あえてこの小さな1点を見つめて集中する時間が貴重だと思う。そのひと時が、心ここにあらずになりがちな日常を、しっかり地に足ついたものにする、重しになる気がするんです」
さりげなく、けれど、ときには大胆に
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「子どものカーディガンは、長女が5歳のころにつくったもの。あちこちに繕い跡があって当時を思い出しますね」
大人用のセーターは、虫食いを隠すため。
「こちらはあえて、デザイン一新のつもりで目立つ肩当てを付けて」
使い勝手よく生まれ変わりました
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使い込むうちに、手首の部分が伸びてゆるゆるに。さて、どうしたものか? と考えて思いついたアイデアがこちら。
「ニット生地を筒状にして、縫い付けてみました」
袖口の中までグッと入って、より温かな手袋に生まれ変わった。
靴を脱ぐのがなんだか楽しみ
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繕う頻度が高いのは、やはり靴下。
グレーの靴下は「穴を見ていたら、だんだんねずみに見えてきて。もう一方はヘビを刺しゅうしました」
ネズミのひげやヘビの舌は、はき心地を考えて玉留めを外に出した結果だそう。
当て布をしたり、ダーニングしたり
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穴に合わせて、繕いの方法も変わる。大きな穴には裏から当て布をして、赤い糸でたたいて補修。
ふたつ並んだ小さな穴は、シンプルに穴をふさいだり、白い糸でダーニングを施したり。
これぞ、世界で1本のプレミアムデニム。
持ち手は余り布でかわいく補強
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かごは、どうしても持ち手から傷んでくる。
洋服づくりをする美濃羽さんの手元には、余り布がたくさん。
そこで好みの布をクルクルと巻いて補強とおめかし。
「手持ちの布を見ながら、色合わせを考えて巻いていくのが楽しいんです」
繕いの相棒
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美濃羽さんがダーニングのときに使うのは、石。
気に入った石があると持ち帰る。糸は絶妙な太さと質感、色のバランスがいい「クロバー」の専用糸。
「以前は自分で毛糸をほぐすのが手間だったけれど、気軽に繕えるように」
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繕い、手をかけた痕跡を残すことで、“自分だけのもの”になった気がする。
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<撮影/千葉亜津子 取材・文/福山雅美>
美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
京都の古い町家で家族4人暮らし。2007年から「FU−KO Basics.」を主宰し、「想い出に残る服」をテーマにシンプルで着心地のいい子ども服・大人服を手づくりで提供。https://fukohm.exblog.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです