(『天然生活』2025年4月号掲載)
幸せとは・・・・・・
わからないことって幸せなことよ。
そういう気持ちで人生を送っていれば、きっといいことあるわよ。
あのね、私の人生、わからないことばっかしであった。
「わからないことがあったら、誰にでも聞きなさい」と、母にいわれて育ったでしょ、だから、わからないことは聞いた。
そのときにすぐ、それを実行しているわけではないけど心に持っているということが大事で、聞かなければ誰も教えてくれない。
聞くはいっときの恥、聞かぬは末代の恥ということわざがあるくらいだからね。
それから「1を聞いたら10を知りなさい」と母に教えられてそれがいまの生き方につながっていると思う。
母がいっていたのは、こういうことだったのかなって歳をとってから、そう感じるようになっていった。
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「まさか90歳を過ぎて、95歳になるまでお餅をつくるとはね・・・・・・。夢のような、いや夢でもないわよ。夢でもそんないい夢はめったに見せてくれない。すべてのことに感謝です」
なにが幸せかって?
・・・・・・それは、自分自身でないだろうか。
この笹餅をつくる仕事をしていなかったら、ぜったいなんぼでもお話ができそうにない方々ともお知りあいになれたし、光栄なことだったなって。
みなさんに、いつも感謝の思いでいるんだけども幸せっていうのはね、結局、自分が思う気持ちじゃないのかな。
嫌いな人って、いないねぇ。
たとえば、嫌なことを言っていると聞いたら「そうなんだよなあ、人間って、みんなそうなんだよな」と。
噂は噂と受け止めて、自分で注意するところは、注意しなくちゃと思う。
ものごとはさ、なるようにしかならない。
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「十本の指は黄金の山。私のやってきたことはすべて母の教え。小学校しか出ていない私がやれることといえば、手仕事くらいだから」
この指、曲がっているべえ、指が痛くて、手がきかなくなってきているんですよ。
マッチでガスの火をつけるのを見て、大変でしょと言われるけどチャッカマンで火をつけるほうが苦労するよ、指、痛くて。
これもひとつの職業病みたいなもので、かっこわりなあ。
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餅をつくるのは週2日、1日につくる量は400個
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1組2個の袋詰めもひとりで行う
笹餅をつくらなくなってからなにを求めれば悔いのない人生を送れるのかと考えるけど、むずかしいな・・・・・・。
誰が誰だかわからなくなったら、と不安になるときもあるし。
でもまあ、生きていれば、自分に起こることすべてが勉強だと思うわ。
それと、何事もあきらめないことだな。
これもだめだじゃ、あれもだめだじゃ、とすれば何もできないから、あきらめないことだわ。
もう思い残すことは何もない、その準備をして死ねれば最高だな。
思い出という素晴らしい財産を背負って静かに逝けるようだったら、このうえない幸せだと思うよ。
不安や怒りを感じるときは、自分が今も未完成なのでこういう気持ちになるんだなと、考えるようにしている。
* * *
<撮影/衛藤キヨコ 構成・文/水野恵美子>
桑田ミサオ(くわた・みさお)
1927年青森県・津軽生まれ。保育園の用務員を退職後、60歳から農協の無人販売所で販売する笹餅をつくり始める。山に分け入って笹の葉を採り、材料のこしあんから全て手づくりする笹餅は、またたくまにおいしいと評判となり、75歳で本格的に起業。79歳で津軽鉄道「ストーブ列車」に乗りながら、車内販売を始めると、「ミサオばあちゃんの笹餅」として注目を集める。2020年には、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に、「たった一人で年間5万個の笹餅を作り続ける職人」として取り上げられる。平成22年度農山漁村女性・シニア活動表彰 農林水産大臣賞受賞。令和3年春の勲章 旭日単光章受賞。95歳で笹餅づくりを引退する。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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