(『天然生活』2019年11月号掲載)
あるものを生かして、さっぱりと使いやすく
築約170年、黒船がやってきたころに建てられた本棟造りの古民家に暮らす米山永子さん。
生まれ育った長野県・中川村のこの家を「古民家 七代」と名づけ、味噌づくりや竹細工教室を中心としたさまざまな集いを主催する米山さんにとって、台所は暮らしの中心であり、訪れた人たちと四季の恵みを分かち合う大切な場所です。
ときに出張料理人が使うこともある開かれた台所だからこそ、「わかりやすく、使いやすく」がモットー。
箸置きも湯のみ茶碗も、素材や種類ごとに分類して入れてしまっておくことで、だれに聞かれても場所を伝えやすく、見た目にも美しくまとまります。

床にはできるだけものを置かず、見せる収納は腰よりも上の高さにそろえることで、ものが多くてもすっきり
「片づけ好きの掃除嫌い」だという米山さん。きめ細かい分類は、掃除の負担を減らす工夫でもあるのだとか。
食器も調理道具もまとめておけば、容器ごと持ち上げてサッとふくだけ。気分転換の配置換えも、すぐに始められるので便利です。

コップは「縦列」にしまうことで奥行きの深い和の食器棚も使いやすく。手前に置ける食器の数も増える
もうひとつ、米山さんの片づけに欠かせない習慣が「移し替え」。
大型サイズの油や、袋に入った調味料などは、場所ごとに同じサイズの小分け容器に移し替えるひと手間で見た目もすっきり。使うときにうっかりこぼしたりすることも減るといいます。
こうした片づけに活躍するのが、取っておいた空きびんや空き箱、家に残されていた古い器など。いわゆる収納用品を新たに購入することはほとんどないのだとか。
「新しいものを買うことは簡単だけれど、それよりもあるものを生かせたときの達成感のほうがずっと大きいんです。
日々の暮らしも同じ。村に生まれて、若いころは遠くにあるものに憧れを抱いていましたが、いまはこの土地の歴史や文化を掘り下げることが一番楽しくて。
あるものを深く知り、それを生かして未来につなぐことが、かけがえのない喜びです」

甘いものもしょっぱいものも、並べてもてなすのが信州のお茶時間。急須の横には注ぎ足し用のポットを常備
〈撮影/佐々木健太 取材・文/玉木美企子〉

米山永子(よねやま・えいこ)
築約170年の古民家を生かしながら、「古民家 七代」の屋号で味噌づくりの会や竹細工教室、四季を味わう集いなどを主宰。農家民宿として、宿泊の受け入れも。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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天然生活2025年5月号では、台所の特集をしています。ぜひあわせてお楽しみいただけましたら幸いです。