(『天然生活』2021年4月号掲載)
対談:受け継ぐ想いのバトン
秋山正子さん × 栗原幸江さん

写真右:秋山正子さん 左:栗原幸江さん
秋山正子(あきやま・まさこ)さん/マギーズ東京 センター長
病院での看護、看護教育を経て1992年より訪問看護に携わる。2011年、医療や介護などの相談ができる「暮らしの保健室」を東京都新宿区に開設。2016年にマギーズ東京をオープン、共同代表とセンター長を務める。
栗原幸江(くりはら・ゆきえ)さん/マギーズ東京 心理士
患者の家族としての経験をきっかけに緩和ケアの世界へ。アメリカのがん専門病院等で心理臨床やホリスティックアプローチの実践を積み、2002年に帰国。2016年の創設時よりマギーズ東京のスタッフを務める。
がんとともに生きる人が、自分の力を取り戻せる場所を
栗原 秋山さんとは、2016年のマギーズ東京開設時、マギーズ発祥の地であるイギリスでの研修をご一緒させていただいて。秋山さんはもっと前に視察に行かれてますよね?
秋山 私は長らく訪問看護に携わってきて、旅立ちのお手伝いもするなかで「病気のもっと早い段階から悩みを気軽に話せる場があればいいのに」と思っていたんです。2008年にマギーズセンターの存在を知って興味をもち、仲間を募って視察。そこでますます「これは日本にも必要」と思い、立ち上げに向けて活動しました。
栗原 イギリスで初めてマギーズセンターの施設を見たときは衝撃を受けました。自然光が入る明るい空間で、庭があって……。環境の力がどれほど利用者に自己肯定感や安心感を取り戻させるかを実感したんです。
秋山 安全と感じられる場所でゆったりと座って話ができる。それだけで人は緊張を少しゆるめることができるんですよね。

海のそばに建つマギーズ東京の建物。庭やオープンキッチンがあり、光がたくさん入る
―マギーズ東京の開設から4年半(2021年取材当時)。振り返っていかがですか?
秋山 利用者は年々増えていて、ニーズの高さをひしひしと感じています。医療の発展によってがんは共存できる病になったけれど、やはり死を想起させるのも事実。これまでどのように生きてきて、これからどう生きていきたいかということに向き合わざるをえなくなる。私たちは、指導や単なる情報提供ではなく、ひとりひとりがどうしたいかをともに考えながら引き出すことを続けてきました。
栗原 そう、大事にしているのは「その人自身が答えをもっている」ということ。私たちは「伴走する」という意識で利用者の話を聞いていますよね。やりとりするなかで、ご本人が語りながらみずから気づいていくんです。
秋山 がんを告知された人やそのご家族、友人、遺族など、訪れた人がやがて模索しながらも自分の足で歩き出す姿をこれまで何度も見てきましたね。
栗原 病院の外のこうしたコミュニティや、利用者ひとりひとりのもつ力の大きさをこの4年半を通じて教えてもらった気がします。

「もっと早く来ればよかったという人やリピーターの人も多いです」と秋山さん
「第二の我が家」のような場所をずっと続けてほしい
―看護師である秋山さんと心理士の栗原さん、立場は違いますが、お互いを深く信頼されている様子がうかがえます。
秋山 栗原さんは心理のスペシャリトとして、私たち看護師が見えていない側面に気づくこともありますよね。利用者ひとりひとりが語る物語を引き出す姿を見ていると、とても勉強になります。
栗原 秋山さんが軸となってくださるおかげで、年代も経験もばらばらなスタッフが、いいバランスで活動できています。利用者、スタッフ含め、お互いが支え合うという文化ができているんですよね。秋山さんの人と人をつなげる力や一歩先を見据えてニーズをとらえ、かたちにしてきた経験は本当に貴重。困ったときには安心して秋山さんに相談できます。
秋山 がん治療の進歩が加速しているのはよいことだけれど、一方で治療方針などを短時間で決めなくてはならないという現状もあります。ここではちょっと立ち止まって、ゆっくり話をしながら一緒に考えられる。それがいまの時代にすごく求められているのではないかしら。
がんとともに生きる人の、病だけでなく人生そのものを丸ごと受け止める。そしてその人が自分の力を取り戻して一歩踏み出すのを応援する。そうした「第二の我が家」のような場所を、これからも一緒に続けていけたらと思います。
〈撮影/川村恵理 取材・文/嶌 陽子〉
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです