(『天然生活』2020年9月号掲載)
だれかを思って、手を動かして
カフェと雑貨の店の「くるみの木」を営んで36年。石村由起子さんは、仕事と向き合ってきた日々をひと段落させ、昨年、これからの人生を夫と心地よく過ごすための新しい住まいを手に入れました。

新居は、石村さんがプロデュースする「鹿の舟・囀」を手がけた建築家、中村好文さんが設計。器がたくさんあるので、収納スペースをたくさんつくってもらった
「長い間探していましたが、ここの土地はひと目で気に入りました。緑に覆われた小高い丘になっていて気持ちがいいの。この土地は、奈良時代、薬草園だったと後から教えてもらい、私もハーブや野花を育てたかったので、巡り合わせをいっそう感じました」
家にいるときは、1日のほとんどの時間を台所で過ごしているという石村さん。やることは盛りだくさんです。
生産者から採れたての食材が届いたら、半日がかりで下ごしらえ。下ゆでしたり、スープを仕込んだり......、ずっと手を動かしています。

かごやざるは台所の必需品。小ぶりで深いざるは米とぎ用。いちじくなどの葉はかごに入れて干してお茶に
「食べてくれる人のことを思って、いろいろとつくるのが好きなんです。おいしいって喜んでもらって、実は私の方が喜んでいるの。自分のリズムで段取りしたいからお客さまはダイニングでひと休みしていただいて。ここではゆっくり羽を伸ばしてほしいんです」

窓辺にはベンチを。トレイに湯飲みを出しておき、ゲストに選んでもらう。ベンチの下は器の収納スペース
最近よくつくるのは、ワンタン料理。この日はかぶの葉や茎、れんこんをスープに入れて。丸いまな板を台にし、あんをさくさくと手早く包んでいきます。
「餃子みたいにひだをつくらないから手軽でいい。野菜を使い切りたいときにもちょうどいいの」

ワンタンにはみょうがを乗せて、中華だれを添える。鶏肉とごぼうのオイル蒸しにはミントを散らし、寒川義雄さんの器に。取り皿は古い染付
鶏肉とごぼうのオイル蒸しも石村さんの定番です。材料を入れたら鍋任せででき上がり。土鍋ごはんは炊き上がるにおいもごちそうです。
枝豆と混ぜて彩りよく大皿に盛り、あっという間にテーブルがにぎやかに。

木の器は食洗機が使えないので洗ったら窓辺に並べて。一晩置き、しっかりと乾かすことが器にとっても大切
「料理家ではないから簡単なものばかりだけど、いい食材を使えばシンプルな調理で十分においしい。無理をしておもてなししても続かない。あるもので工夫して、喜んでもらうのが楽しいの」
<撮影/伊藤 信 取材・文/宮下亜紀>
石村由起子(いしむら・ゆきこ)
奈良にある「くるみの木」主宰。「鹿の舟」のプロデュースも手がける。『自分という木の育て方』(平凡社)など著書多数。https://www.kuruminoki.co.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです