(『天然生活』2023年7月号掲載)
歳をとってから心の拠り所が必要
「昔、年寄りたちに、老いてみろといわれた言葉が、いま、しみじみと。やっぱり老いてみないとわからないことがあります」
工藤さんは現在92歳。昨年足を骨折してリハビリに励み、少しずつできることをやり始めています。

「いい道具がないと、いい糸はつくれません」。30年以上使っている糸紡ぎ機。ペダルを足で踏むと回転し、糸の撚り具合は回転のかけ方によっても変わってくる。かけすぎると硬い糸になり、その加減が難しい。「いい毛だけそろえるというのはかえってだめです。短い毛が入っていくことで、いい具合に撚りがかかります」
「これからは目もだめだし、力仕事もだめ。紡ぐぐらいはなんとかなるかと思って。ただ、若いときの気分で1日100gを紡ごうとは考えないほうがいい。でも、歳をとったからってラクをしてもだめです。最後の最後まで、自分で自分をこき使って。何もしなければ、もっとみじめだと思いますしね」
「私の母は『女はただ座るんじゃない、手仕事を持って座れ』というのが口癖で、ただ座っている女の姿ほど、みっともないものはないというような、とても厳しい人でした。ただ、私が結婚をしてからは相談相手となってくれ、私のやり始めたことに対して『とにかく続けろ』と応援してくれていました。続けることを努力していけばいいのだし、心の拠り所になれば、それでつながっていく。歳をとってから、それは必要なこと。歳をとってから心の拠り所があるということは、こんな幸せなことはないと。私の仕事について何の批判もしなかった母で『いい仕事を始めたな』っていわれたことを覚えています。手仕事をしていると純粋になれます。すべてをそれにだけ集中できる、そういうものがあって幸せです」
スピンクラフト岩泉
代表・工藤厚子
住所:岩手県下閉伊郡岩泉町袰綿字本町40
電話:0194-25-4006
<写真/落合由利子 構成・文/水野恵美子>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです