(『天然生活』2024年6月号掲載)
多くを求めず、「これで十分」という心が、安らかに生きるコツ
「足ることを知らない人は、どれほど裕福であっても心は貧しい」
これは、お釈迦さまの説法のなかでも、最も大切な教えです。
人間は、何かを手に入れてもまた次のものが欲しくなる生きもの。お金や物だけでなく、愛、友情、肩書きなども欲望の対象です。
その執着に身を任せていたら、「もっと、もっと」と求めつづけてしまい、永遠に心が満たされることはありません。
一方で「知足(ちそく)」、すなわち足ることを知っている人は、「もうこれで十分だ。ありがたい」と思えるため、たとえ貧しくても心が満たされています。
多くを持つよりも、自分の持っているもので十分だと思えるかどうかが、安らかな生き方につながります。
持たないための智慧
もの選びの考え方を知ることで、そもそも「買わない」暮らしを実践。
欲が芽生えたときの対処法を知る

だれにでも欲はあって当然です。だからこそ、その欲を「どう扱うか」は、生きている限りのテーマといえます。
肝心なのは、欲が芽生えても、すぐに判断に結びつけないこと。欲しいと「思った」としても、それをどうするかの「考え」に結びつけないよう心がけてください。
イメージで説明すると、欲はまず「おなか」で受け止めます。その思いを「頭(=判断)」に上げてしまうと「買う、買わない」で迷うことになるから、その手前で保留にするのです。
人の心は揺れ動くものだけれど、そのままにしておけば元に戻ります。
「欲しい」と思ったとしても、どうしようかと考えなければ、そのうち元に戻るものなのです。
手に入れるときは、自分にとって「よい」ものを

「安いから」「人気があるから」「ほかにいいものがなかったから」
そのようなきっかけでものを買っていると、自分のまわりにそこまで思い入れのないものが集まってきます。
すると、心に響いていないから使わなくなったり、また別のものが欲しくなったりして、不要なものが増えることにつながります。
ものを選ぶときには、少々値が張ったとしても、よいものを買いましょう。
質も見た目も使い勝手も、「自分にとって本当によいものかどうか」を吟味するのです。
そういった心持ちで手に入れたものは、ていねいに扱うようになり、長く使えることにつながります。
愛着がわき、「これがあれば十分」という気持ちになれるのです。
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物価高騰が続き、老後のお金に不安を感じている人もいるかもしれません。でも、自分の「好き」はがまんしたくない。これからは「がんばらない」がキーワード。日々の暮らしを楽しみながら、お金とどうつきあうか、が大切です。ドミニック・ローホーさん、柿崎こうこさん、ショコラさんなど、ていねいな暮らしをされている12人の方々に、「好き」を大事にしながら実践している、お金とのつきあい方を教えていただきました。むだは省きながら、好きなところにはお金を使う、メリハリのあるお金の使い方が、豊かな暮らしを支えていました。また、お金の管理やため方、増やし方についてのハウツーも満載。お金の流れを整える仕組みづくりのこと、これから始める人にもわかりやすい「新NISA」のこと、エコにもつながる節約のことなど、いま知っておくと得をするアイデアをご紹介しています。『買いものは投票なんだ』の著者・藤原ひろのぶさんによる「幸せなお金の使い方」、枡野俊明さんによる「“持たない”暮らしの智慧」も掲載。心は豊かに、賢くお金とつきあうヒントが、きっと見つかります。
<監修/枡野俊明 取材・文/石川理恵 イラスト/松栄舞子>
枡野俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。『禅、シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『禅の心で大切な人を見送る』(光文社)ほか著書多数。http://www.kenkohji.jp
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです