(『天然生活』2024年6月号掲載)
持たないための智慧
もの選びの考え方を知ることで、そもそも「買わない」暮らしを実践。
買いたいものがあっても、一定期間買い控える

禅においては、考えることよりも、体で感じることを重んじます。もしも「買いたいもの」が出てきたときには、それが必要かどうかを頭で考えたりはせず、体で確かめるようにしましょう。
たとえば、生活が変化して「自転車があればなあ」と思ったとしても、家電製品が壊れて「修理できない」となったとしても、友人が「これいいよ」と便利な台所用品をすすめてきたとしても、すぐには買わずに、それなしの生活を10日間ほど送ってみます。
やっぱり不便だったり、生活に支障があったりしたら、本当に必要なものだといえるでしょう。
一定期間は「買い控えること」を基本ルールにすると、むやみにものが増えなくなります。
愛着がわき、「これがあれば十分」という気持ちになれるのです。
すべてのものが、百人の手を経て自分に届いたと想像する

禅には「一粒のごはんは、100人の人の手を経てそこにある」という言葉があります。食べ物だとありがたさをイメージしやすいかもしれませんが、ほかのものでも同様です。
たとえ大量生産の商品であっても、企画した人、開発した人、製作した人など、たくさんの人たちの手がかかっています。
その人たちは「こうすればもっと使いやすくなる」とか「なるべく手頃な値段で届けたい」などの思いを込めて働いてくれたことでしょう。
現代ではものの背景が見えにくくなっているからこそ想像してみるのです。
自分たちの生活が、おかげさまの上に成り立っているのだと実感できれば、やたらに買い替えたいとは思わなくなるでしょう。
むやみに情報をもたず、必要なものだけに目を向ける

現代は、情報があふれる世の中です。ネットの広告は、見ている人が思わず欲しくなるようなものをAIがセレクトしているから、見ればまんまと欲しくなってしまいます。
次々と入ってくる情報に振り回されて、実は買わなくてもよかったようなものまで買わされています。また、向こうから来る情報は、気軽に接するあまりすぐに忘れてしまいます。
「以前に買ったことを忘れて、また同じものを買ってしまう」などの失敗談も、惑わされているせいだとしたら笑い事ではありません。
いっそのこと、SNSのバナーや広告はクリックしないと決めましょう。
情報は、自分が必要なときに、必要な内容だけを取りにいけばいいのです。
あったらいいものは、なくてもいいもの

ものを選ぶとき、「あれば便利」や「いつか使える」といった考えを向けているとしたら、それは「なくても困らないもの」に違いないでしょう。
調理道具、食器、洋服など、なくてもいいものを増やしてしまったら、スペースが埋まって動きが不自由になったり、掃除が大変になったり、快適な暮らしから遠のいてしまいます。
すでに家にあるものについても、「これがないと本当に困るのか?」という目を向けてみてください。
惰性で使うのではなく、常に精査していくことが、自分にとっての「必要最低限」を知る練習になります。
なくても困らないと思ったら、「処分できるものリスト」として頭に入れておきましょう。
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物価高騰が続き、老後のお金に不安を感じている人もいるかもしれません。でも、自分の「好き」はがまんしたくない。これからは「がんばらない」がキーワード。日々の暮らしを楽しみながら、お金とどうつきあうか、が大切です。ドミニック・ローホーさん、柿崎こうこさん、ショコラさんなど、ていねいな暮らしをされている12人の方々に、「好き」を大事にしながら実践している、お金とのつきあい方を教えていただきました。むだは省きながら、好きなところにはお金を使う、メリハリのあるお金の使い方が、豊かな暮らしを支えていました。また、お金の管理やため方、増やし方についてのハウツーも満載。お金の流れを整える仕組みづくりのこと、これから始める人にもわかりやすい「新NISA」のこと、エコにもつながる節約のことなど、いま知っておくと得をするアイデアをご紹介しています。『買いものは投票なんだ』の著者・藤原ひろのぶさんによる「幸せなお金の使い方」、枡野俊明さんによる「“持たない”暮らしの智慧」も掲載。心は豊かに、賢くお金とつきあうヒントが、きっと見つかります。
<監修/枡野俊明 取材・文/石川理恵 イラスト/松栄舞子>
枡野俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。『禅、シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『禅の心で大切な人を見送る』(光文社)ほか著書多数。http://www.kenkohji.jp
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです