(『天然生活』2024年6月号掲載)
捨てるための智慧
すでにあるものを手放していくために、価値観や基準の見直しを試みていきましょう。
自分が納得できる「ルール」を決めると、手放しやすくなる

禅寺の修行中、修行僧は割り当てられたスペースの中で生活をします。ものを手放すとき、「スペースに収まる範囲かどうか」を目安にすると、明確な判断基準になります。
スペースを決めたあとで、ものの「いる」「いらない」を仕分けたとして、最初は「いる」の判断が多いかもしれません。でも、入りきらなければ、再度、優先順位をつけるしかないのです。
「いる」としたもののなかから、さらに「いらない」を見つけていく。そういった行為を繰り返しながら、「3年着てない服はもう着ない」とか「1年使わなかった化粧品は捨てる」など、自分の「手放す基準」を見極めると、次からはもっと手放しやすくなります。
真理から遠いもの、真理を含んでいないものは捨てる

世の中は、常に移り変わるもの。だからこそ、時代が変わってもずっと変わらないものがあるとすれば、それは「真理」です。
たとえば、春になれば暖かくなることや、人として盗みを行ってはいけないことなどは、時代によっても変わりません。一方で、常識のように語られることのなかには、あやふやな内容が含まれています。
「年相応の服装をする」とか「男性は、女性はこうあるべき」などは、固定観念として刷り込まれているだけであり、時代が変わっても通用するような真理を含んでいません。
真理と遠い価値観には、流行り廃りが生じます。振り回されることなく手放していけば、自分らしい生き方が送れるでしょう。
役割を終えたものは、感謝の気持ちで処分する

役割を終えたものが捨てられないとき、その背景には何があるでしょうか。
若かりしころに似合っていた服や、仕事の業績に関わるものなどが手放せないとしたら、そこには「執着」があるのかもしれません。
過去に縛られずに手放したほうが、心が軽くなるでしょう。一方で、大事な人からもらったもの、すり減るまで大切に使い切ったものなどに宿るのは「愛着」です。
「箱ひとつ分だけとっておく」など、目安を決めて残すのも心の栄養になります。
とはいえ、いくら愛着のあるものでも多すぎると、大切に扱うことができません。チャリティーに活用したり、ご供養したり、感謝の気持ちで手放せば、ものの命はまっとうされます。
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<監修/枡野俊明 取材・文/石川理恵 イラスト/松栄舞子>
枡野俊明(ますの・しゅんみょう)
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。『禅、シンプル生活のすすめ』、『心配事の9割は起こらない』(ともに三笠書房)、『禅の心で大切な人を見送る』(光文社)ほか著書多数。http://www.kenkohji.jp
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです