• 静岡県沼津市で器と雑貨の店「hal」を営み、飾らない人柄が感じられる暮らしぶりで注目を集める後藤由紀子さん。そんな後藤さんから無理をしない、親の介護と実家との関わり方を伺いました。
    (別冊天然生活『後藤由紀子さん 50代からはじめる日々の備え』より)

    家族が無理をせずにできること

    画像: 家族が無理をせずにできること

    3年ほど前までのhalの店内には、器の隣りや棚の上に、ちょこんと盆栽が飾られていました。小さいながらも見事な姿に「売り物ですか?」と聞く人も多かったそう。その盆栽は、後藤さんの父親が手がけたものでした。

    「父の趣味だったんです。庭にたくさん並んでいたから、好みのものをもらってきては店に飾っていたんですよ。懐かしいな。でも、亡くなる数年前から、寝たきりになってしまって。盆栽をいじるのも難しくなってきていました」と当時を振り返ります。

    「父の介護は母が担当してくれていました。私は三人姉妹なので、姉と妹と交代でサポートするように。あー、そういえば、父が寝たきりになる前に、母が骨折したことがあったんです。そのころに姉妹で交代制で実家に行く習慣はついていたかもしれません」 

    画像: 幼いころの三姉妹の写真や20代のころに父親と撮った写真など。「朗らかな父でした。私はとくにお父さん子で、いまも変わらず父が理想の人だと思っています」

    幼いころの三姉妹の写真や20代のころに父親と撮った写真など。「朗らかな父でした。私はとくにお父さん子で、いまも変わらず父が理想の人だと思っています」

    入院している母親に代わり、交代で実家に通っていたそう。食事をつくって一緒に食べたり、買い物をしたり。親の状況に合わせて、姉妹でフォローする体制をつくっていました。

    「だから、父が寝たきりになってからも自然とルーティンができたのかもしれません。とくに気負うことなく、無理のない範囲でやっていました。主に母が介護する立場だったので、疲れやストレスがたまらないようにという思いが強かったのもあるかもしれません。すべてを自分たちで抱え込むようなことはせず、入浴などプロに任せられることはお願いするようにしていたし、デイサービスも活用していました。頼ることのできる人がいることは心強かったですね」

    自分ができることをだれかに頼むというのは、ときに罪悪感をもつ場合もあります。できるのにやらないのは怠慢ではないか、と。

    しかし、後藤さんたちがそんな思いを抱えずに済んだのは「家族が無理をしない」ことを優先すると決めていたから。

    そうして時がたち、やがて父親が亡くなって母親はひとり暮らしをすることになりました。

    娘から母への実家便

    米や調味料などの重いものは後藤さんが車で実家までお届け。ときどきお総菜を買っていくこともあるのだそう。

    「仕事が終わったら電話して、足りないものを聞いて届ける感じです。ひとり分のごはんをつくるのってやっぱり面倒くさいこともあると思うので、簡単に食べられるお総菜を買っていくといいかな、と。逆に野菜を分けてもらうこともあるので、母とはもちつもたれつです」

    「介護中にあまり遠出できなかったので、いまは元気にあちこち出歩いています。とはいえ、心配は心配なので、父がいたころと同じように実家には寄るようにしています」

    母親が好きなお総菜を買って冷蔵庫に入れておく。米や味噌などの重い食材は代わりに買って持っていく。

    日常のなかで無理なくできることを組み込んで、実家に寄る頻度を増やしているそうです。

    画像: 身に着けている帯締めは母親から譲り受けたもの。「母はもう着なくなってしまって、妹もそれほど着物は着ないので、姉と私が受け継いでいます」

    身に着けている帯締めは母親から譲り受けたもの。「母はもう着なくなってしまって、妹もそれほど着物は着ないので、姉と私が受け継いでいます」

    後藤さんの家と店に盆栽はなくなってしまいましたが、いまは、盆石や水石と呼ばれる観賞用の美しい石が置かれています。

    画像: 棚の下から二段目の中央にあるのが父親の盆石。「石を削って山のような形にしているのかな......こういうものをつくるのが好きな父でした」

    棚の下から二段目の中央にあるのが父親の盆石。「石を削って山のような形にしているのかな......こういうものをつくるのが好きな父でした」

    「台座も石も父が手がけたもの。盆栽と違ってお世話がいらないのでありがたいんですよ」と笑いながら見せてくれます。

    盆栽と同じように、後藤さんの暮らしと仕事を見守ってくれているようでした。

    ※本記事は、別冊天然生活『後藤由紀子さん 50代からはじめる日々の備え』からの抜粋です。

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    静岡県沼津市で雑貨店「hal」を営む後藤由紀子さん。2人のお子さんも家を出て、いまは夫婦ふたり暮らしです。小さいころから防災意識が高く、だれかが困ったときにも助けたいと思うお母さん気質、そして超がつくほどの心配性。そんな後藤さんの日々の備えとは?
    体の備え、お金と仕事の備え、家族(親、子ども、夫婦)の備え、住まいの備えについて教えていただきました。50代から先、まだまだ人生を楽しむためのヒントが詰まっています。



    <撮影/林紘輝 取材・文/晴山香織>

    後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
    静岡県沼津市で器と雑貨の店「hal」を営む。生活雑貨店「ファーマーズテーブル」などに勤務後、地元に戻り2003年に自身の店をオープン。ふたりの子どもは社会人となり、子育ても一段落。最近は「出張hal」として日本各地で期間限定の出店も。飾らない人柄が感じられる暮らしぶりや着こなし、もの選びのセンスも人気で、エッセイを20冊出版。近著に『雑貨と私』(ミルブックス)がある。

    ※記事中の情報は『後藤由紀子さん 50代からはじめる日々の備え』掲載時のものです



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