(別冊天然生活『飛田和緒さんの四季を味わうごはんと暮らし』より)
飛田和緒さんの「好きな本」

『千利休とその妻たち』(上・下)
戦乱の世で茶の道を追求した千利休が、後妻となったおりきとの出会いにより新たな世界を見出していく歴史小説。茶人としての道に悩む利休と、深い愛で伴侶を支えたおりきのありようを美しい筆致で描いた。
「ミッション系の学校に通っていたので、プロテスタント教徒である三浦綾子さんの作品は授業でも習ったなじみ深い存在。なかでもハラハラする展開の本作がお気に入りです」
三浦綾子・著(新潮文庫)/上・下巻各693円
『御松茸騒動(おまつたけそうどう)』
江戸中期、算術に長けながら、なぜかそれとは無関係な「御松茸同心」なる役を拝命した尾張藩士・小四郎が、予想外の事態にたじろぎながらも新たな世界と出合っていく、エンターテインメント性に満ちた時代小説。
「次々と物語が展開していくような勢いのある作品は、ぐいぐい読み進められ気分転換にぴったり。友人に紹介してもらったこの作品もまさに、そんな楽しさに満ちています」
朝井まかて・著(徳間文庫)/704円
『富士日記』(上・中・下)
小説家・武田泰淳の妻であり、夫の死後随筆家として高い評価を得た著者の代表作。富士山麓に夫婦ですごした13年間の日々が、繊細で独特な感性によって描かれている。
「人の暮らしを垣間見られるような日記文学が好き。ただ、この作品は著者の独特な感性がそのまま表れているので、日常を描いているはずがいつの間にか遠い世界に連れて行かれるような、不思議な感覚になります」
武田百合子・著(中公文庫)/上1,034円、中1,056円、下1,034円 ※写真は旧版
『わたしの献立日記』
昭和を代表する名優のひとりであり、随筆家としてもファンの多い著者が、仕事で忙しいときも台所に立ち続け、つくり続けた料理の数々を惜しみなく伝える『献立日記』
「毎日の献立を考えるのは、誰でも大変なこと。そんなときこの日記を開くととても参考になり、励まされます。沢村さんは私が暮らす地域に暮らしていたと聞いており、そんなところにも親近感を覚えながら読んでいます」
沢村貞子・著(中公文庫)/755円 ※写真は絶版の新潮文庫版
『聡明な女は料理がうまい』
1976年に発表され話題を呼んだ傑作エッセイ集。
「料理というじゃじゃ馬ならし」「優雅なパーティの開き方」「野菜は伸びやかな感覚で食べよう」など、食にまつわるポイントやレシピを多数収録しながら、女性の生き方そのものへの提言にも満ちている。
「ひとり暮らしをはじめたばかりの若いころに出合った本。『料理ってこんなふうに楽しめばいいんだ』と台所に向かうきっかけをくれました」
桐島洋子・著(アノニマ・スタジオ)/1,760円 ※写真は絶版の文春文庫版
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飛田和緒さんの、健やかに日々を送るためのごはんと暮らしの知恵をご紹介。
季節の食材を使った保存食からお弁当まで、知恵がつまった一冊をお楽しみください。飛田さんがずっと伝えてきたのはいつものごはんと暮らし。そのときどきに「これが一番」と気に入ってつくったものばかりです。加えて最近の雑感や、いま私の料理に欠かせない道具、近ごろお気に入りの調味料などについて、新たにお伝えしています。このなかからひとつでもお気に入りが見つかったら、ぜひ繰り返しつくり、手になじませて、あなたの味にしてみてください。
<撮影/山田耕司 取材・文/玉木美企子>
飛田和緒(ひだ・かずを)
東京に生まれ、高校3年間を長野ですごす。結婚後に料理家としてデビュー。身近な食材で手軽につくれるレシピが幅広い年代の支持を集め、出版した書籍は100冊以上にのぼる。神奈川県の海辺の街に暮らし、娘の進学とともに現在は夫とのふたり暮らし。日々の食卓を記録したSNS「#ひとりごはんときどきふたり」も注目を集めている。著書に『おいしい朝の記憶』『くりかえし料理』(ともに扶桑社)など。インスタグラム:@hida_kazuo
※記事中の情報は、別冊天然生活『飛田和緒さんの四季を味わうごはんと暮らし』掲載時のものです