• 日用品として愛されてきた、岩手県鳥越地区の「すず竹細工」。この手仕事と材料のスズタケがいま、存続の危機に。スズタケの再生が先か、つくり手がいなくなるのが先か。予断を許さない状況の鳥越の自然と歴史と、すず竹細工職人・柴田恵さんを中心としたつながる伝統と未来のお話です。
    (『天然生活』2024年9月号掲載)

    後進を育て、技をつなぐ。すず竹細工の未来

    この鳥越地区ですず竹細工づくりを守っている職人のひとりが、すず竹細工職人の柴田恵さん。

    恵さんは鳥越にある「もみじ交遊舎」という町の施設で15年間すず竹細工の指導にあたり、そこを辞してからしばらくして、私塾を開講しました。

    「スズタケが盛岡辺りから枯れ始めていると聞いたので、いよいよかと思っていましたが、紫色の花が山一面に咲いた様子は不気味でした」

    画像: すず竹細工のつくり手・柴田恵さん。66歳ながら、鳥越のつくり手としては最年少

    すず竹細工のつくり手・柴田恵さん。66歳ながら、鳥越のつくり手としては最年少

    さらに、「長年いい仕事をしてきたベテランの人たちが、高齢化とスズタケが手に入らないことを理由に廃業されるのを見て、大変なことになったと強く感じました」

    それからは、枯れていない場所を探してスズタケを採ることに専念。さらに、後進の指導にと孤軍奮闘の日々が続いています。

    「以前は、コツみたいなことは教えていませんでした。それは長年の経験から自ら体得するものだから。でも、材料も時間も限られるなか、もうそんなこともいっていられません」

    残念ながら、恵さんのような生粋の鳥越の後継者はいないものの、私塾の生徒さんは現在7人。皆熱心で、車で1~2時間の距離を通ってくるということです。

    内陸の鳥越から岩手県の太平洋沿岸に移動した先にある野田村に、陶芸工房「ギャラリーIZUMITA」を構える泉田之也・はるみ夫妻。はるみさんは恵さんの生徒のひとり。

    「はるみさんは職人仕事のなんたるかをわかっているから、安心」と、恵さんの信頼が厚いのです。

    画像: 泉田之也・はるみ夫妻。之也氏はその作品が海外でも高く評価されている。はるみさんもそのサポートで忙しい

    泉田之也・はるみ夫妻。之也氏はその作品が海外でも高く評価されている。はるみさんもそのサポートで忙しい

    画像: 登り窯の脇の雨をしのげる場所でスズタケのひごづくり。手提げに特化して制作。自分なりのサイズ感を模索中

    登り窯の脇の雨をしのげる場所でスズタケのひごづくり。手提げに特化して制作。自分なりのサイズ感を模索中

    野田村から海沿いを南下した田野畑村にあるフレンチレストラン「ロレオール」のオーナシェフ・伊藤勝康さん。

    「唯一の男性の生徒さん。多方面で活躍していて多忙なはずなのに、欠かさず教室に通ってきて頭が下がります」と恵さん。

    スズタケが枯れていない場所を探して沿岸部に足を運んでいる、と伊藤さんにお聞きしたので、田野畑村からの帰り道、山の様子を見に行くことに。

    画像: 山菜やきのこを洗うための六つ目ざる。使い手=つくり手これに勝るものなし

    山菜やきのこを洗うための六つ目ざる。使い手=つくり手これに勝るものなし

    画像: 沿岸部にはスズタケが採れる場所があると聞き、伊藤シェフに同行いただいた

    沿岸部にはスズタケが採れる場所があると聞き、伊藤シェフに同行いただいた

    たしかに枯れずに残っている群生地がありました。ただし、鳥越のように気軽に採るというわけにはいきません。

    山には所有者がいますし、スズタケが使える状態かどうかの見極めも必要です。さらに、熊の出没による危険性もあります(これは鳥越も同様ですが)。

    それでも、新たに採取場所を開拓することができたら、そして、後進が育って技をつないでいくことができたら、すず竹細工の未来にひと筋の光明といえましょう。

    画像: ヒラメのポワレクリームソースがけ ズッキーニ添え。食材そのもののよさを引き立てる味つけ。フランスパンはすず竹細工のかごに入れて提供される

    ヒラメのポワレクリームソースがけ ズッキーニ添え。食材そのもののよさを引き立てる味つけ。フランスパンはすず竹細工のかごに入れて提供される



    〈撮影/在本彌生 取材・文/堀 惠栄子〉

    柴田 恵(しばた・めぐみ)
    1958年岩手県二戸郡一戸町鳥越生まれ。30代で竹細工職人を志す。1995年から2010年まで、鳥越もみじ交遊舎において竹細工指導を行う。その後も私塾を開いて後身の指導にあたり、年に数回、展示会で作品を発表。2024年5月、自身についての本『かごを編む 鳥越のすず竹細工とともに、柴田恵』(リトルモア)が刊行された。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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