猫の粗相からわかることとは?
「今までいい子だった猫が、急に粗相をした!」
そんなびっくりに出会ったことはないでしょうか?
「猫と暮らす」ということは、とても静かで深いやりとりを続けること。彼らは言葉をもたないかわりに、行動で気持ちを伝えるからです。
そして、私たちは、その行動の「意味」を一生懸命読み解こうとします。
我が家は10匹の多頭飼い。その中に、もうすぐ2歳になるあまえんぼうの男の子「コウ」と、10歳のちょっと気の強いお姫様気質の「こころ」がいます。

ベッドが大好きな「コウ」

お姫様体質の「こころ」
そんな2匹。「おしっこは猫用トイレで」と人間は思っているのですが、時々、2歳のコウはベッドに小さな水たまりを作ります。10歳のこころは、あるときからこっそりキッチンのシンクに用を足すように……。
最初は驚き、ショックでした。
駆け巡る「どうして?」の疑問。
ですが、怒ったり、声を荒げたりをすることは絶対にしませんでした。そんな気持ちにはまったくならなかったのです。
猫のSOSを見逃さない
なぜなら、それは彼らなりのSOS。あるいは「安心のサイン」かもしれないから。
そして考えます。いつもはトイレでできるコウとこころ。どうして、まれにベッドやシンクでするのだろう?と。
思えば、コウはベッドにしてしまうとき、いつもふかふかのタオルケットなどが敷かれて人間が寝ています。寝室が好きなコウ。もしかしたら、一緒に寝ていると気持ちがゆるんで、大好きな私たちのにおいに落ちついて、つい「ここはリラックスできるぼくの場所だぞ」とにおいをつけてしまうのかもしれません。
こころがキッチンのシンクにうんちをするのは、冷蔵庫の上が定位置のこころにとって、もっとも近くて便利な、そして他の猫に気を使うことなく、ひとりで落ちつける場所なのかも……。

シンクで「スッキリ」した「こころ」
猫を変えずに環境を変える
「粗相をするなら、その部屋は立ち入り禁止にしたらどうですか」。獣医さんに相談すると、そんなアドバイスを受けることがあります。
でも、私は思うのです。ふたりの行動がたとえ人間の理想とずれていたとしても、ここは人間だけの家じゃない。「みんなの家」だから、私たちの側が工夫すればいい。猫を変えるんじゃない。環境を変えてフォローしよう!と。

そこで我が家では、ベッドには防水シーツをかけ、おしっこされるたび洗って解決。
シンクもお皿が溜まっているようなことは絶対に避け、おしっこやうんちをされたらすぐに洗い、またにおいが残ってはいけないので、排水溝にトイレ用の臭い取りを入れています。
彼らのペースを守りながら、「ここでしてもしかたなかったね」と言える余裕を持ちたいと思うのです。
「粗相」は何かのサイン。それは心か体か、あるいは生活リズムの変化か。
だから、粗相があったときは、叱るのではなく、こんなことに気をつけたいと考えています。
粗相があった時のチェック
・健康チェック
泌尿器系、腎臓、ストレスによる過敏症ではないか受診を視野に入れる
・トイレの場所と個数を確認
多頭飼いなら「頭数+1個」が理想。静かで落ち着いたプライベートゾーンを確保できる位置に設置を検討する
・掃除は「無香料」でていねいに
粗相をしてしまった場所に排泄物のにおいが残ると、また繰り返してしまいがち。とはいえ、猫は極端な「香り」が苦手なので気を付けて、嫌なにおいのしない掃除を
・猫の自尊心を守る対応を
怒らず、見守る姿勢が、何よりの回復の近道です
「粗相」とは、本当は「猫の心の手紙」なのかもしれません。その手紙は、ときに湿っていたり、ちょっとくさいこともあるけれど(笑)。
きっと私たちへのメッセージであり、「ここは安心していい場所」「わたしの場所だよね?」という問いかけなのかなと感じます。
だから、私は今日も、防水シーツを取り換え、シンクを洗い、答えるのです。
「無理していい子にならなくていいんだよ。困った思い出も、いつか思い返して微笑む、いとおしい1ページになるんだから」と。


咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」