人間より猫が好きな猫
人間が大好きな猫。
猫同士が落ちつく猫。
いろんな子がいますが、皆さんのおうちはどうでしょうか?
我が家には、ちょっと不思議な甘えん坊がいます。
名前は「ユキ」。二年前にお外で生まれた三兄弟のうちのひとりで、ママ猫と一緒にうちの一員になりました。
三兄弟は、ママも含め、みんな真っ黒。見分けがつかないくらい似ていますが、ユキはお腹の毛が一部、ふわっとした白なのです。

こちらが「ユキ」
来たばかりのときはあんなにネズミのようだったのに、今ではすらりと大きくてたくましい。
なのに、ユキは目が合うとちょっと戸惑ったような顔をします。
大好きな猫と一緒にいる時が幸せ
そんなユキが、先住の男の子「一(いつ)」に見せる愛情は、もはや「一途」という言葉では足りないほど。一の姿が見えなくなると、「ふにゃー、ふにゃー」と子猫のようなか弱い声で鳴き続けるのです。
そして、一を見つけるやいなや、まるでマタタビを仕込まれたように全身でまとわりつき、頭をこすりつけ、うっとりと目を細めます。

奥が「一」手前が「ユキ」。幸せそう……
まるで、世界に「一」しかいないような顔で……。
けれど、人間に対しては、ユキはまだ距離があります。
私が名前を呼んでも、近づいても、ユキの瞳はどこかで「構えた」ままなのです。
猫が人間を構える理由
それにはきっと理由があります。
ユキがまだ半年くらいだったとき、ひどい風邪をひいて、必死でつかまえて動物病院に連れていきました。
検査も、注射も、薬も、幼いユキには怖かった。でもそれ以上に、あの子のちいさな心に「自分の意思を無視された記憶」が残ってしまったのかもしれません。
猫は「怖かった」という記憶を、けっして軽く見たり、忘れたりしません。
そんな猫たちだから、私たちは焦らずにその記憶に「優しい気持ち」を上書きし、「信じてみよう」ともう一度思ってもらうしかないのです。
いつかくる、雪解けを信じて。

「一」には近づけないぞ! 「ユキ」の眼差し
警戒する猫とは焦らず、じっくりと関係性を築く
これまでの事情から、はたまた性格から、人間と距離のある猫。そんな子とは、どうやって仲良くなればいいでしょうか?
外を彷徨っていた猫や、家族を亡くした子など、さまざまな新入りさんが来た我が家のチャレンジをお伝えします。
・そばにいても妙に目を合わせず、ゆっくりとまばたきをする
・無理に触れようとせず、「いてくれること」を大切にする
・おやつを「そっと置いてあげる」ところから始めてみる
・信頼している猫(ユキの場合は、一)と一緒にいる時間を大切にする
・猫のあくび、毛づくろい、お腹を見せる=安心している証拠と理解し、急がない
・「仲良くなりたい」より「信じてもらいたい」と思って寄り添う
「まあまあな存在」を目指して寄り添う
「ふにゃー」とユキは今日も鳴いています。
私じゃない。一の姿を求めて。
でも、それでいいと思うのです。
私のことも少しずつ、「こわくない存在」から「まあまあ、いてもいい存在」になってきたような気がするから。
信頼は時間がかかります。だけど、それがゆっくりと花開いたとき……。
その重みは、軽々しく近づいて得られるものの何倍も、あたたかいと感じるのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇

咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」