(『天然生活』2024年9月号掲載)
使ってこそ、魅力がいっそう引き立つ台所道具
台所道具の選び方はもちろん、その手入れ法にも精通している日野明子さん。
昔から使われている台所道具とその手入れ術を紹介している著書では、道具のつくり手を訪ね、息遣いを感じさせる手づくりの現場とともに、長く使うための手入れ法までを取材しました。
「同じ用途の道具だとしても、つくり手により手入れ法が異なることもあります。また、昔の土間のある風通しのよい台所と、現代の気密性の高いマンションでは、気温や湿度もまったく違いますね。ですので、お話しするやり方は一例ととらえてもらえたら。ただ、すべてにいえることは、道具は使ってこそ、その魅力がよりいっそう引き立つということ。ぴかぴかで清々しい新品の姿もいいけれど、経年変化による味や深みは何にも代えがたいものです」

たとえば曲げわっぱのお弁当箱。
やわらかな素材のスポンジなどで洗うのがよいのかと思いきや、たわしで力を入れてごしごしと洗うのがよいそう。
すると、使うたびに年輪が浮かび上がってくるように木の風情が感じられるのだとか。
竹ざるなら竹のつやと深みが出て、鉄のフライパンなら油が染み込み、えもいわれぬ重厚感をまとうと続けます。


道具の特質を理解して、正しい手入れ法を
つくり手への取材のなかで、日野さんがとくに印象的だったというのが、中華せいろ。
せいろは使う際に蒸気が上がるため、自然と消毒作用があり、都度洗う必要はないのだとか。
「洗うことで竹や木の重なり部分に水分がたまり、それが残ることでカビの原因になるそう。ただ、食材によっては不衛生と感じることも。そこで私は、どうしても汚れが気になるときは、たわしとクエン酸で洗い、風通しのよい場所に収納して完全に乾かすようにしています。そんなふうに、道具の性質を知ったうえで自分なりの手入れ術を身につけるといいですね。使うことで生まれる質感をぜひ楽しんでみてください」
〈道具をよい状態で長く使うコツ〉
● やってはいけないことは絶対にやらない
● 経年変化を楽しめるお手入れを
● 傷んだらプロの手を借りる
〈監修/日野明子 取材・文/結城 歩 イラスト/はまだなぎさ〉
日野明子(ひの・あきこ)
ひとり問屋「スタジオ木瓜」代表。松屋商事を経て独立。百貨店やショップとつくり手をつなぐ問屋業をはじめ、日本の手仕事の展示や企画協力に携わる。著書に『うつわの手帖』シリーズ(ラトルズ)のほか、『台所道具を一生ものにする手入れ術』(誠文堂新光社)。道具や器について雑誌や新聞への寄稿も多数ある。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです