日常のなかに潜む、美の見つけ方
エレン・ケイの教え1
本当の意味での「見ること・聞くこと・歩くこと」
私たちには、人生を完全に変える力はありません。それだけに、幸せとは無力な人間の手の中ではなく、昔の人たちがいったように、神の手の中にあるといえるのかもしれません。
私たちに決められることがほとんどなくても、暮らしを幸せにできるかどうか、豊かで美しいものにできるかは、自分で決められるはずです。もちろん後者は、私たちが本当に見ること・聞くこと・歩くことを学べるかどうかにかかっています。

自宅でのエレン・ケイ(Ellen Key at her home,Strand. 1924)
エレン・ケイの教え2
私たちが見えているもの
ある人に見えているのは、そこに家や雑木林があり、踏みつけられていない牧草地の中に家が建っている風景。ところが、別の人に見えているのは、その家のまわりがどんなふうに緑に囲まれ、陽光が美しく木々の葉にちらちらと光を落とし、牧草地の花の色がお互いに混ざり合いながら絶えず変化しているかということ。
みんな気づくはずです。たとえ二つの目を持っていても、すべての人が同じように見えているわけではないことに。たとえ健康な足で散歩をしていても、すべての人が人生を味わい楽しめているわけではないことに。

自宅でのエレン・ケイ(Ellen Key at her home,Strand. 1911)
住まいの美しさのなかで
エレン・ケイの教え3
自分が美しいと感じたものを選ぶ
私たちがアート作品を選ぶときは、自分で美しいと感じたものを選ばなければなりません。他人が美しいといったからではなく、作品を楽しむのは自分の目であって、友人の目ではないのです。
本当の喜びを感じられるのは、本当にアート作品を愛したときだけであって、ものを所有することによってではないのです。

Lilla Delsjön Goteborg.(photo Ikegami )
本記事は『Beauty for All 美しさをすべての人に』(konst)からの抜粋です
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『美しさをすべての人に』(エレン・ケイ 著/池上貴之 訳/一般社団法人konst 刊)
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100年前から続く幸せのデザイン
「北欧の美しい暮らしの秘密に迫る」
籠いっぱいに盛られたブルーベリー。手工芸に囲まれた、ゆったりとした日々。北欧の人々の暮らしぶりは、まるで絵本の世界のように、あたたかく、幸せに満ちています。そんな幸福な暮らしの中から生まれたからこそ、北欧のデザインは、時を超えてもなお色あせることなく、人々を魅了し続けているのでしょう。
実は、このことを100年以上も前に語っていたスウェーデンの思想家がいました。女性や子どもの権利運動でも知られる、エレン・ケイです。AIの進化や不安定な社会情勢により、私たちの道徳観や美意識が揺らぎやすい今だからこそ、あらためて「幸福とは何か」を見つめ直すことが大切なのではないでしょうか。エレン・ケイの言葉には、心豊かに、美しく暮らすためのヒントがたくさん詰まっています。
ぜひ手に取って、そのメッセージに耳を傾けていただけたら嬉しく思います。
konst 須長檀
<エレン・ケイ著 池上貴之訳>
エレン・ケイ
1849年12月11日~1926年4月25日。スウェーデンの女性哲学者、フェミニスト、教師、デザイン理論家。ケイの残した著作は多く、日本語訳された著書には『児童の世紀』(小野寺信、小野寺百合子訳、冨山房百科文庫)や、『恋愛と結婚』(小野寺信、小野寺百合子訳、岩波文庫)などがある。
池上貴之(いけがみ・たかゆき)
1979年岡山生まれ。スウェーデンのHDK修了。金沢大学人間社会研究域准教授。美術やデザイン教育、北欧デザインに関する講演や論文を発表。日本教育大学協会の全国美術部門や大学美術教育学会に所属。2024年より一般社団法人konstにエデュケーショナル・デザイナーとして参加。