• 「南極の暮らしは、実は防災に役立つんですよ」と話すのは、第57次南極観測隊の調理隊員・渡貫淳子さん。追加の食料調達は一切なしという厳しい条件のなか、あるもので工夫しながら約1年間の南極生活をおいしく乗り切ったそう。そんな渡貫さんに、防災にも役立つ隊員たちを支えた食事おすすめの備蓄食材を教えてもらいました。

    厳しい環境下こそ「いつものごはん」を

    第57次南極観測隊の調理隊員として、相方さん(もうひとりの調理隊員)と約1年間、隊員30人分の食事づくりに精を出した渡貫さん。

    マイナス30度にもなる“極寒の南極”という過酷な環境で活動する隊員たちを支えるため、そのときある食材で献立を試行錯誤。

    意外にも喜ばれたのは、特別な料理よりも「いつも通りのごはん」でした。

    「隊員のみなさんがおっしゃっていたのは、定食屋さんで食べる米+味噌汁+焼き魚……のような食べ慣れているごはんのほうが食べ続けられると。『いつも通りのごはんが食べられることが幸せだ』って」

    画像: 近著『南極レシピ』では、隊員に人気のメニューや備蓄食材としても便利な缶詰と乾物のアイデアレシピを紹介

    近著『南極レシピ』では、隊員に人気のメニューや備蓄食材としても便利な缶詰と乾物のアイデアレシピを紹介

    帰国後、南極で得た暮らしの知恵を伝えていきたいと、講演などを通じてさまざまな方と交流するなかで、避難所生活を経験した方と話す機会があったそう。

    そのとき、南極で求められる食事と災害時に求められる食事にはつながるものがあると気づきます。

    「炊き出しといえば具だくさんの豚汁が定番。でも、その方がおっしゃるには、豚汁もとてもありがたいけれど『お米とお味噌汁のような普段通りのものが嬉しい』と。南極でもそうでしたが、災害時に自分や家族、周囲の人の命をつなぐためには、環境が変わっても飽きずに食べ続けられる食事が求められるのかなと思います」

    災害時でも「いつものごはん」を
    おすすめの備蓄食材

    渡貫家では、災害時に家族が飽きずに食べられるよう、非常食として売られているものではなく、スーパーで購入できる食べ慣れていて長期保存が効くものをストックしています。

    渡貫さんおすすめの備蓄食材がこちら。

    おすすめ その1|さばの水煮缶

    画像: 味噌煮よりもアレンジしやすい水煮が◎

    味噌煮よりもアレンジしやすい水煮が◎

    とくにおすすめの缶詰が「さばの水煮缶」。

    どんな料理にも使いやすく、好みに合わせて味を変えられるので重宝します。

    「水分補給ができ、あるものを具材としてどさっと入れられるという点で、災害時の食事には汁物をおすすめしたいのですが、さばの水煮は汁物のメイン具材として大活躍。100円ショップなどで手に入れられるのも嬉しいですね」

    おすすめ その2|やきとり缶

    画像: さっぱりとした味が好みであれば塩味を

    さっぱりとした味が好みであれば塩味を

    もうひとつのおすすめは「やきとり缶」。

    そのままごはんにのせれば、即席やきとり丼の完成です。

    「味がしっかりついているので、災害時、冷蔵庫にある野菜などを組み合わせてアレンジしやすいのもいいところ」

    おすすめ その3|切り干し大根

    画像: うま味や甘味があるのもいいところ

    うま味や甘味があるのもいいところ

    腹持ちのよさでは一番と渡貫さんが勧めるのは「切り干し大根」。

    水で戻したときに出る戻し汁も活用します。

    「切り干し大根は歯ごたえがあってお腹にたまりやすいので、乾物では一番おすすめです。麺代わりにもなりますよ。戻し汁は貴重な水分なので、汁物にそのまま使うといいでしょう」

    おすすめ その4|お茶漬けの素など

    画像: フリーズドライの味噌汁などもおすすめ

    フリーズドライの味噌汁などもおすすめ

    「いつも通りのごはんを簡単に」という点であるといいのは、お茶漬けの素やインスタントの汁物といった即席で食べられるもの

    保存期間が長く、水でもおいしく食べられるものもあるので、お湯を沸かせないときにも。

    おすすめ その5|カップラーメン

    画像: 器としても活用できる災害時の救世主

    器としても活用できる災害時の救世主

    災害時の食事としてだけでなく、食器代わりにもなるのが「カップラーメン」。

    「容器が器になるので、備蓄食材のひとつとして用意しています」

    備蓄食材の準備で気をつけたいこと
    ローリングストックすることを前提に、以下をポイントに準備しましょう。

    家族のアレルギーを確認する
    食物アレルギーを持つご家族がいる場合、災害時にアレルギー症状が出ないよう、パッケージの裏面の表示を確認しながら用意しましょう。また、アレルギーの種類を家族全員で理解しておくことで、炊き出しや配給の食事を食べる際に、大切な家族を守ることにもつながります。

    家族の好き嫌いを確認する
    渡貫さん曰く、南極の厳しい環境下でもよっぽど切羽詰まらない限りは苦手なものを食べないそう。「食べたいものが食べられることで気持ちが落ち着くので、できるだけ好きなものを」

    たくさん買いすぎない
    不安だからと多く買いすぎると、期限が近づいたときに使い切るのが大変に。渡貫家では「消費しなければならないことも想定して、缶詰でしたら1人あたり2缶×人数分程度にしています」

    ▼防災に役立つ“南極生活の知恵”の記事はこちら



    〈撮影/林 紘輝 文/太田菜津美(編集部)〉

    渡貫淳子(わたぬき・じゅんこ)

    画像: おすすめ その5|カップラーメン

    第57次南極地域観測隊の調理隊員。1973年青森県八戸市生まれ。調理の専門学校を卒業後、同校に就職。結婚後、出産を機に退職するも、その後も家事・育児をこなしながら調理の仕事を続ける。30代後半に南極地域観測隊の調理隊員への夢を抱き、3度目のチャレンジで合格。昭和基地史上2人目の女性調理隊員(民間人では初)。南極でよくつくっていた「悪魔のおにぎり」をモデルに、某コンビニチェーンが商品化したことでも注目される。現在は南極での経験を元に、フードロスや環境問題、防災、男女共同参画などをテーマにした講演活動を行う。近著に『私たちの暮らしに生かせる 南極レシピ』(家の光協会)がある。



    『私たちの暮らしに生かせる 南極レシピ』(渡貫淳子・著/家の光協会・刊)

    画像: 防災に役立つ“南極観測隊”の暮らしの知恵。災害時でも「いつものごはん」を食べられるおすすめ備蓄食材/第57次南極観測隊の調理隊員・渡貫淳子さん

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    ◆どんな食材もおいしく食べきる!私たちの暮らしに生かせる南極レシピ◆

    追加の食材調達は一切なし。ごみを一切捨てられない。

    そうした南極ならではのルールのなかで生活するうち、ごみを出さずにおいしく食べきる工夫が身についたという渡貫さん。

    フードロスなどが話題になることが多い現代で取り入れたい、毎日のごはんづくりに役立つ南極レシピを紹介します。

    【目次】
    ● 第一章 毎日のごはん作りに役立つ南極レシピ
    ● 第二章 本当においしい冷凍野菜のレシピ
    ● 第三章 缶詰と乾物のアイディアレシピ
    ● 第四章 捨てられがちな食材の活用レシピ
    ● コラム
    ・生野菜のおいしい冷凍法
    ・残りがちな調味料の活用法
    ・おからをもっと食べよう
    ・毎日のメニュー、どう考えていますか?
    ・南極ごはんQ&A など



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