スリムな野良猫が、あっという間に「ぽっちゃり」猫に
「うちの猫がおでぶさんで困ってます……」
何もかもが満たされた家猫さんと暮らしているご家族からは、そんなお悩みをよく聞きます。
そこで思い出すのが、我が家にいる「ヨナ」という黒猫。
2年前。ヨナは3匹の産まれたばかりの子猫を連れてきました。
当時のヨナはまだ1歳ほど。小柄で細く、目はビー玉のようにくりくりで、「子猫の母なのに子猫みたい」なんて、心配しつつも微笑ましく見ていたものです。
それが今や……立派な横綱級。
ふかふかの毛並みは栄養たっぷりに育ち、まるでぬいぐるみのよう。まだ少し「こわがりさん」で抱っこすることはできませんが、寝転がる私たちの上を横切る体はずっしりと重く、その重みが愛おしいったらありません。

2年前の「ヨナ」

立派な「ぽっちゃり猫」になった「ヨナ」
きっと外猫時代、食べられなかった経験があるのでしょう。保護されてからのヨナは「食べてもいいの?」「まだあるの?」とばかりにがっついていました。
でも今ではもう、食べ物より夫の撫で手のとりこです。
「ヨナー、かわいいなあ。ヨナー。ヨナたーん」
夫の手が背中をなでると、ヨナは「うなあん」と高い声で鳴き、尻尾をくねらせながらすり寄ってきます。おしりを高々と掲げ、喉をゴロゴロ……いえ、ブルドーザーのように轟かせてご満悦。撫でられるたびに「しあわせってこういうことだわ」とでも言っているようです。
しあわせ太りはうれしいけれど
ただ……、横綱級ともなると、ふと心配になるのは体重のこと。
しあわせ太りは嬉しいけれど、関節や心臓に負担がかかっては困ります。
困ったことに、ヨナは遊びにまったく興味がありません。おもちゃを振っても「ふーん?」と目だけ動かし、すぐにゴロン。遊びでのダイエットは絶望的です。
だから私たちができるのは、小さな工夫だけ。
窓の景色がよく見えるようにキャットタワーを近くに置いてよじ登ってもらったり、「ヨナちゃーん」と声をかけてちょっと移動してもらったり。それくらいしかできないのです。
我が家はごはんが常に食べ放題。そのため「飢えて、反動で食べすぎる」ということはありません。でも、だからこそ“しあわせ太り”は避けられないのかもしれません……。
それでも、ブルドーザーのように響く喉の音を聞いていると、「健康にだけ気をつけてあげよう、それでいいんじゃないか」と思えてきます。

猫の健康を維持するためにやっているダイエット法
そんな猫のしあわせ太りでお悩みの方へ。
我が家の小さな工夫をお伝えできればと思います。
・食事は食べ放題でも「隠れごはん」にする
部屋のあちこちに少しずつ置いて、探し歩かせる。軽い運動にもなります
・キャットタワーや段差を活用
見晴らしの良い窓辺にキャットタワーなどを設置すると、自然に登ってくれることが多く、上下運動になります

・声かけ&なでなで運動
呼んで移動してもらい、撫でながらストレッチさせる。人間にも癒やし効果あり♪
・「無理に痩せさせない」ことも大切
体重よりも元気さ、毛艶、食欲をチェック。しあわせが一番の栄養ですから、定期検診でひっかからない程度なら楽しく過ごして「ストレス太り」をなくしましょう
夫に撫でられて喉をブルブル鳴らすヨナを見ていると、私は「この家に来てくれてありがとう」としみじみ思います。
太っていても、遊ばなくても、そこに居てくれるだけで十分。
外でガリガリで生きてきたヨナ。もしもそんな時代の夢を見ても、目が覚めて、自分を纏うふっくらとしたお肉に「もう安心していいんだわ……」と、息を吐いてもらえたら、と心の底から祈るのです。
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咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」