(『天然生活』2020年12月号掲載)
ひもとくたびに新たなヒントに出合う喜び
「この本、手にとって触ってみてください。ページごとに紙の種類、手触りが違うでしょう?」
そういって大平一枝さんが見せてくれたのが、1987年に出版された『2角形の詩論』。大正から昭和にかけて活躍した詩人、北園克衛の作品です。
自由奔放なデザインや紙質の変化は、手で触ることでしか味わえません。
「こういう存在感は、デジタルにはないですよね。本は手触りなども含め、その存在自体がかけがえのないものだということを思い出させてくれます」

『2角形の詩論』(北園克衛著 リブロポート 絶版)
多くの本と出合ってきた大平さんにとって、読み返したくなる本とは「ひもとくたびに、何らかのヒントをくれるもの」。
開高健の作品は、文章を書いていて行き詰まったときに読み返す1冊です。
「初めて読んだとき、表現の独創性とその深さに打ちのめされました。自分も文章を書く際、これくらいの高みを目指したいという気持ちになります」
長年、読みつづけている本がある一方、新しい作家や作品との出合いもうれしいもの。そのなかから新たな“読み返したくなる本”が生まれています。

本は自宅リビングのソファや寝室のベッド、ときには近所のカフェで読むのが習慣。「家で読むときは、通販で買ったクッションテーブルが活躍します」
詩人の長田弘の作品は、名前こそ知っていたものの、初めて読んだのは2020年になってから。
『世界はうつくしいと』の表題作の中の一節が、とりわけ胸に響いたといいます。
“一体、ニュースとばれる日々の破片が、わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。”
「これをコロナ禍に読んだので、とりわけ心に響きました。ニュースにばかり気を取られないで足元を見よう。毎日の生活のなかに大切なことがある。そんなことを教えてもらった気がします」
大平さんの読書のおやつ
仁井田本家の「こうじチョコ」

名前はチョコでも、原材料は有機米糀のみ。味わいは甘酒を濃縮したよう。
「口の中でとろけるなめらかな食感。少量でも満足感があり、手がべとつかないから読書中にもぴったり」
プレーンと、季節限定のフレーバーがある。
〈撮影/山川修一 取材・文/嶌 陽子〉
大平一枝(おおだいら・かずえ)
編集プロダクション勤務を経て、1995年にライターとして独立。さまざまな雑誌や新聞などに執筆。著書に『東京の台所』(平凡社)など多数。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです