(『天然生活』2024年10月号掲載)
揺らぎの時間に身をおき、心を自由にさせておく
キャンドルの炎の揺れや、映画や絵画を観たとき、本を読んだときの感情の揺らめき。
クリスさんにとって夜は、そういう「揺らぎ」に身をおく時間です。
自分の心をできるだけ柔らかく自由にさせて、「いま、これをしたい」と思うことをする。
あるときそれがふっと意識に上がり、行動を起こすとき、ものごとを判断するときの、力になってくれるそうです。
クリスさんの「平日夜の過ごし方」
〈月曜日〉ゆっくり画集を眺める
〈火曜日〉日記を書いて、心の声を聞く
〈水曜日〉家の中をパトロールして片づけ
〈木曜日〉気ままに料理を楽しむ
〈金曜日〉窓辺でワインを飲む
月曜日|ゆっくり画集を眺める
サイズも大きいので持ち運びができず、あわただしい日中はなかなか時間をかけて見ることができない、美術展の図録やアートブック。
絵をゆっくり眺めることは、気持ちに余裕がないとできないもの。
家事や仕事などやるべきタスクを終え、「ここからは自分のための時間」と切り替えられたら、本を膝にのせてページを開きます。

この日手にしたのは、自分の誕生日に購入していたマティスの画集。灯りも最小限に、豊かな時間を味わう
火曜日|日記を書いて、心の声を聞く
「書かなきゃ」と義務になると続かないので、書く量も形式も自由に。
「日記というよりは、心の記録帳のようなもの」とクリスさん。
「書く」スピードは、「考える」や「話す」よりスロー。
速度を落とすことで、ふだん意識に上らない思いに気づき、思考の優先順位をつけて「これは忘れたくない」という思いを抽出していきます。

「書くことは考えること、『そのときの、自分の心を聴く』行為でもあります。生活が変わり、そういう時間をもつ余裕も少しずつ増えてきました」

現在愛用する日記帳は「モレスキン」のファブリックカバーのノート
水曜日|家の中をパトロールして片づけ
こちらは曜日に限らず、クリスさんの毎晩の習慣。
部屋をざっと見まわし、台所に食器の洗い忘れはないか、出しっぱなしにしている本や道具はないか。乱れている部分があれば、リセットしておきます。
「朝起きたときの自分自身が気持ちいいように……というのが目的なので、あまり神経質になりすぎず、さっとできる範囲で」

玄関に出しっぱなしだった靴を棚に収め、出ている靴はそろえておく

斜めになっていた本類を、見栄えよくまっすぐに正しておく。「作業はほんの5分か10分のことですが、これをしておくだけで、朝に気持ちよく一日がスタートできるんです」

腰を下ろしてへこんだソファのクッションも、手で叩きふっくら復活
木曜日|気ままに料理を楽しむ
料理は日々のことですが、夕食が終わったあとは時間の制約がない、「締め切りがない料理」に取りかかれます。
「いつかつくろう」と材料だけ買っていたものや、コトコト長く煮込むものなど、自由な料理を楽しむ時間に。
「大量のパスタソースを仕込んだり、肉を煮込んでみたり。もともと料理は好きですが、より気ままに取り組めます」

料理家のレシピを自分流にアレンジした、トマト缶を加えたハッシュドビーフ。「レシピ本は見ず、自分の感覚任せでつくっています」

表に出す調味料類は、使う頻度の高い一軍たち。塩や砂糖、オリーブオイルやバルサミコ酢など
金曜日|窓辺でワインを飲む
ふだんから晩酌は欠かせないけれど、明日は家族も仕事や学校がない金曜の夜は、よりリラックスモード。
刻々と変化する夕暮れどきの光を眺めながら、窓辺でグラスを傾けていると、気持ちもゆっくりとゆるんでいきます。
ワイワイ人が集まり食事を楽しむときもあれば、家族3人でのんびり過ごすときも。

初夏に完成したばかりのアトリエ「Cafune」に足を運び、夜時間を過ごす日も。深い緑に囲まれた一軒家で、少しずつ闇に包まれていくのを感じる

ワインを片手に、木々のざわめきや虫の音に耳を傾けるのも楽しい
〈撮影/大森忠明 取材・文/田中のり子〉
クリス智子(くりす・ともこ)
大学卒業と同時に、ラジオパーソナリティーの仕事を開始。イベント出演や朗読、エッセイ執筆など幅広く活躍。J-WAVE「TALK TO NEIGHBORS」(月~木曜13:00~13:30)のナビゲーターを務める。日本キャンドル協会理事。2024年5月より鎌倉の古民家を改装したアトリエ「Cafune(カフネ)」から、暮らしやアートに関する発信を行っている。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです