20年ぶりに茶道のお稽古に通い始めました
今年に入り茶道のお稽古に通いはじめました。東京を離れたタイミングでお茶から遠ざかったので、20年ぶりの再開です。その間、茶道に関して何もしていなかったわけではなく、引越し先や移住先でお稽古をつけてくださる先生を探すには探していたのですが、時期や流派のちがいなどで通うまでには至りませんでした。そして、気づくと20年のブランク。東京は、お稽古ができる場所も多く、新たにスタートラインを引き直す「60歳」という区切りの年齢でもあことから「一からはじめる気持ち」でお稽古に通うことにしました。
新たに通いはじめたところは、かつてお稽古していた流派の流れを汲むお点前です。と言っても、細かなところは色々とちがうため「一から」と思った通り、すべて最初から学んでいます。すっかり忘れていることも多く、自分でもおどろきます。

60歳で飛び込んだ新しい場。無理せずに自分の体力に合わせて学ぶことに
わからないことばかりの上、初めて会う方たちのなかでの長時間のお稽古。思った以上につかれます。はじめた当初は、お稽古があった日の夜は、他のことができないほどでした。
半年過ぎたいま「無理をしないように」と思うようになりました。
若い時分とはちがうのです。体力も年々落ちています。何よりわたしは、60歳・シングル・フリーランス。体調管理ができないと、仕事も、学びも、遊びも、つまり、暮らしすべてが成り立たなくなります。お稽古をはじめる前は「理想のお点前を早くできるように」と思っていましたが、考えを少し改めることにしました。
まず「あれもこれも」は止め、ちいさな目標を立てることにしました。当面は「盆点前をできるようにする」です。盆点前とは、テーブルとイスを使用する茶道で気軽に愉しめるのが魅力です。わたしは、盆点前を習うのが初めて。まずは、盆点前がきちんとできることを目指すことにしました。
次は「つかれてしまう前にお稽古を終える」。お稽古は、午前・昼食を挟み・午後と長時間可能なのですが、そちらも午前中で終えるなど体力を見ながらにすることにしました。

歳を重ねて、見えてくる世界
お稽古をはじめてみると、お茶の捉え方が30代のころとは変化していることに気づきました。
以前は「お稽古はお稽古」「暮らしは暮らし」と、それぞれ別のこととして考えていたフシがあります。でも、いまは、すべてがつながっていると感じています。
お茶室での時間と日々の暮らしの境界線が、曖昧になったというのでしょうか。道具をていねいに扱うこと、手順を踏んでお茶を点てること、場を整え準備することなどは、日常のふとした場面場面で重なるものがあります。また、窮屈そうに見える決まりごとや順番も理に叶っていることが多く、感心しきりです。
もう少しおいしくお茶を点てられるようになったら、自宅に友人を招きおいしいお菓子とお茶を振る舞いたいと思います。20年前は、畳の間もないし、道具も揃っていないし、と、完璧でないことを理由にしていなかったことですが、いまは「お茶を介していい時間がすごせれば」と考えるようになりました。
「一期一会」という言葉が示すように、大事なのは、その場を誰とどのように過ごすのか──。多少、足りないものや欠けていることがあったとしても、お茶も人生もいいと思うようになりました。



広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所共同代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、瀬戸内を経て、2023年から再び東京在住。現在は、執筆のほか、ホテルや店舗、住宅などの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)、最新刊は『60歳からあたらしい私』(扶桑社)。インスタグラム:@yukohirose19